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液体中の原子の動き可視化―高性能電池開発などにも貢献:東京大学/物質・材料研究機構ほか

(2017年12月15日発表)

 東京大学と(国)物質・材料研究機構の研究グループは1215日、液体中で原子11つが動く様子を電子顕微鏡で観察することに世界で初めて成功したと発表した。液体中で化学反応や物質の溶解がどのように進むのかなどの解明につながり、高性能電池の開発や細胞内で進む様々な化学反応によって支えられている生命活動の解明などに役立つと期待している。

 産業活動や生命活動の場で、液体は物質の輸送や化学反応の溶媒、潤滑油などとして幅広い役割を担っている。ただ、それらの現象を正確に理解するには、原子や分子が液体中で個々にどのような動きをしているかを解明する必要があった。

 そこで東大 生産技術研究所の溝口照康准教授と大学院生の宮田智衆さん、物材研の上杉文彦主幹エンジニアの研究グループは、液体でありながら真空中でも揮発しない特殊なイオン液体に注目、真空中に観察対象を置く必要がある電子顕微鏡で観察を試みた。実験ではイオン液体中に金イオンを溶かし、重い元素ほど明るく輝く点として可視化できる「環状暗視野法」と呼ばれる特殊な手法で連続撮影した。

 その結果、金イオンは直径が約0.08nm(ナノメートル、1nm10億分の1m)の輝く点となり、1つ1つが液体中で拡散していく様子が観察できた。さらにその軌跡を追うと、一定時間内に大きく移動したり小さな領域内に留まったりするなどの不均一な動きをしていることも明らかになった。

 空間的・時間的に不均一な動きはこれまで理論的には予想されていたが、実験的に捉えられたのは今回が初めて。得られた金イオンの軌跡から、イオン液体内部における金イオンの拡散係数や、拡散に要するエネルギー量を明らかにする事もできたという。