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有機半導体の金属電極の形成に新手法―高精細にパターニングした電極フィルムと半導体を接合:東京大学/産業技術総合研究所ほか

(2020年3月12日発表)

 東京大学と(国)産業技術総合研究所の共同研究グループは3月12日、高精細にパターニングされた電極を有機半導体に取り付ける手法を開発したと発表した。電極形成の際に半導体が受けるダメージや電極と半導体の接触不良などがなく、1分子層の極薄の有機半導体であっても機能を引き出せることが実証されたという。

 半導体素子の駆動に不可欠な電極は通常金属製で、真空蒸着法やスパッタリング法など高エネルギープロセスで形成されている例が多い。このため、高エネルギーに伴うダメージの抑制や接触不良の低減対策などが図られているが、今後利用拡大が見込まれる有機半導体は無機半導体に比べ分子間の結びつきが弱く、溶剤や熱に弱いことから、有機半導体上への電極形成にはこれまで以上に対策が重要とされている。

 研究グループが今回開発したのは、電極を半導体に真空蒸着したりするのではなく、電極をあらかじめ別の基板上に作製し、それをそっくり半導体表面上に移し取るという方法。

 まず基板上に電極材料をパターニングし、その上にアクリル樹脂の一種のPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を、さらにその上に洗剤ノリの成分のPVA(ポリビニルアルコール)を塗布し、乾かす。

 すると、電極、PMMA,PVAを一括して基板からはがすことができ、取り扱いが容易な電極フィルムが得られる。電極とPMMAの厚みはいずれも100nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)以下、PVAもせいぜい数十μm(マイクロメートル、1µmは100万分の1m )で、得られた電極フィルムは極薄。

 続いてこのフィルムを半導体上に貼り付けるように置き、温水でPVAを溶解して除去する。すると電極およびPMMAが静電気力によって半導体上に吸着し、電極と半導体の一体化が完成するという仕組み。

 この手法を使って、厚さ4nmの単結晶から成る1分子層の有機半導体に金属電極を取り付けて有機電界効果トランジスタを試作したところ、トランジスタは正常に作動し、移動度は実用化の指標となる値が確認され、1分子層の有機半導体の性能を引き出せることが実証された。

 この手法を用いると積層デバイスを容易に作れるため、より複雑で高度な機能を持った集積回路の作製が可能となる。また、大面積化が容易で、曲面など様々な表面形状の半導体にも適用できるなどの特徴があり、低コスト・フレキシブルエレクトロニクス用のプロセス技術としての活用が期待されるという。