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次世代有機半導体に新技術―世界最高水準の特性実現:東京大学/筑波大学

(2017年11月15日発表)

 東京大学と筑波大学の研究グループは1115日、次世代電子素子として期待される高性能有機半導体の実現につながる新しい有機半導体分子を開発したと発表した。半導体の性能指標である電荷移動度が世界最高水準の有機半導体を実現できることも確認した。折り曲げ可能な柔軟性など優れた特性を持つ半面、シリコンなどの無機半導体に比べて電荷移動度が低いことが有機半導体の弱点とされていた。

 開発したのは、東大の岡本敏宏准教授と筑波大の石井宏幸助教。新分子は亀の甲と呼ばれるベンゼン環が一列につながった芳香族化合物「ChDT」の一種。従来の有機半導体分子が亀の甲が直線的につながった棒状分子を基本にしていたのに対し、ジグザグの分子形状を持っている。

 有機半導体の電荷移動度が低いのは、有機半導体が弱い分子間力で結合しているため室温程度の温度でも分子の熱運動によって電荷の伝導が妨げられることが原因。これに対し新しい有機分子はジグザグ形状によって分子間振動が抑制されるなどして電荷の通り道が変化しにくい。そのため高い電荷移動度が実現できるという。

 ChDTを用いた有機半導体についてはこれまで報告例がなかったため、研究グループはまず新しい合成法の開発に取り組み、既存の出発原料から容易にChDTを基本とした分子群を合成できるようにした。得られた分子群はいずれも大気中で長期間分解しない化学的安定性と、従来の棒状分子群では実現できなかった高温での結晶安定性を得ることができたという。

 新分子を用いて安価な印刷方式で有機半導体膜を作成したところ、無機半導体のアモルファスシリコンより10倍以上高い世界最高水準の電荷移動度(10/Vs (ボルト秒))が実現できたという。

 研究グループは「有機半導体の電荷移動度のさらなる向上に貢献し、曲がるディスプレイや、印刷法による安価で低環境負荷の電子タグなどの開発が加速する」と期待している。