10個のアミノ酸からなる人工タンパク質の結晶構造を解明
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は10月27日、10個のアミノ酸からなる新規のタンパク質「CLN025」を合成し、結晶中と溶液中での立体構造を明らかにしたと発表した。
 同研究所は、先に10個のアミノ酸からなる「最小のタンパク質」の創生に成功し、それを「シニョリン」と命名。その発表(2004年8月)で、シニョリンは、タンパク質としては極めて小さいが、水溶液中で分子の相互作用によって固有の立体構造を形成すると報告した。
 しかし、これまでは結晶化するタンパク質は、35個のアミノ酸からなるものが最小で、分子内相互作用によって固有の立体構造を安定的に形成するには、少なくとも30~50個のアミノ酸が必要であるとの考え方が支配的であった。
 同研究所の研究グループは、万人が認める証拠を提供するために同じ10個のアミノ酸の条件でシニョリンより安定な改変体を作ることを試みた。その結果、シニョリンの2つのアミノ酸をほかの種類のアミノ酸に置き換えることで、人工タンパク質「CLN025」の単結晶を得ることに成功した。これを用いてX線回折法により結晶構造を分解能0.11nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)で解明した。
 さらに,NMR(核磁気共鳴)による構造解析を行い、CLN025は水溶液中でも結晶中と同様の立体構造を維持していることを明らかにした。
 また、この構造とシニョリンの構造は、主鎖(アミノ酸配列)に関してはほぼ同一で、置換した2つのアミノ酸が分子の全体構造を大きく変化させるものではないことも確かめた。
 研究グループはさらに、同研究所に設置された超並列計算機「ブループロテイン」システムを使用してシミュレーションを行い、CLN025の動的構造分布を解明した。
 CLN025の結晶化は、「アミノ酸の数が少ないものはペプチドで、一定数以上のものがタンパク質である」という従来認識が経験的な目安にすぎないことを示唆している。今回の研究成果は、「タンパク質とは何か」という基本的問題の学術的再考につながることにもなるため、研究グループは不明瞭であったタンパク質の物質科学的定義に関して、「理想タンパク質」という概念を提案した。

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新規タンパク質「CLN025」の結晶の顕微鏡写真(提供:産業技術総合研究所)