結晶中の原子の配列を元素別に可視化することに成功
:物質・材料研究機構

 (独)物質・材料研究機構は10月29日、電子顕微鏡を用いて結晶中の原子の配列(原子列)を元素別に撮影することに成功したと発表した。
 同機構は、長年透過電子顕微鏡の研究を行ってきたが、今回の研究成果はそれらを学術的・技術的基礎として、最先端の走査透過電子顕微鏡と電子エネルギー損失分光法により、原子の種類ごとに元素分析して識別することを初めて可能にした。
 走査透過電子顕微鏡は、電子を収束して試料に入射し、透過した電子を観測する顕微鏡で、最先端の透過電子顕微鏡により結晶構造を直接観測することはできたが、従来技術では原子の種類ごとに可視化することは困難であった。
 原子列ごとに元素分析するには、電子の入射位置が一つの原子の上からずれない極めて高い安定性が必要である。同機構では、走査透過電子顕微鏡の機械的・電気的安定度を10倍程度向上させ、1分間に原子1個分程度のずれ(約0.1nm=ナノメートル、1nmは10億分の1m)しか生じないようにすると共に、外部からの影響を少なくするため装置を無振動特殊実験棟に設置した。
 また、原子核の近くを通った入射電子が、試料との相互作用で損失したエネルギーから、試料の元素分析などが可能なため、必要な原子だけを撮影できるようにした。今回の研究では、セラミックス中の酸素、マンガン、ランタンの原子を可視化(撮影)することに成功した。
 今後は、さらに空間分解能を高めるとともに、高機能先端材料などへの適用を進める予定。この研究成果は、英国の科学誌「ネイチャー」に掲載される予定。

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可視化したセラミックス中の原子。左から酸素、マンガン、ランタン(提供:物質・材料研究機構)