SuperKEKB加速器でビーム周回に成功
―世界最高性能の衝突実験に向け大きく前進
:高エネルギー加速器研究機構(2016年3月2日発表)

図

衝突点からリング半周分、約1.6km離れた直線部のSuperKEKB加速器トンネル内。左側手前から奥に続く、青色の電磁石が並んでいるラインが電子リング。右側ラインの奥には陽電子リング用の高周波加速空洞を配置。右側の壁横から陽電子ビーム輸送路が陽電子リングに合流している(提供:高エネルギー加速器研究機構)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)は3月2日、2月初めに試運転を開始した電子・陽電子衝突型加速器「SuperKEKB加速器」で、電子を加速し蓄えておく電子リングと、陽電子を加速し蓄えておく陽電子リングの両リングにおいて、ビームを継続して周回させることに成功したと発表した。1周約3kmの大型加速器で、トンネル内を電子と陽電子とをほぼ光の速度まで加速して衝突させ、素粒子反応を測定・解析し宇宙のナゾの解明に迫る。

 

■改造前加速器の40倍の衝突性能に

 

 SuperKEKB加速器は、2001年に世界最高のビーム衝突性能を実現したKEKB加速器のさらなる高度化を目指し、2010年から改造中の電子・陽電子衝突型加速器。世界でもまだ実用化されていない大角度の交差衝突方式を採用、衝突点におけるビームサイズを前身のKEKB加速器の20分の1に絞り込むとともに、蓄積ビーム電流をKEKB加速器の2倍に高め、KEKB加速器の40倍の衝突性能の実現を目指している。

 KEKでは2月1日にSuperKEKB加速器の試運転を開始、2月10日に陽電子リング、続いて26日に電子リングで、改造後初めてビームを継続して周回させる、いわゆるビームの蓄積に成功した。

 電子に先立ちビームの周回・蓄積に成功した陽電子リングでは、すでに100mAを超える電流の陽電子ビームを安定して蓄積しているという。

 今後は電子・陽電子衝突反応から生じる各種粒子の種別や運動量などを測定するBelle Ⅱ測定器をはじめ、衝突点でビームを数十nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)のサイズにまで絞り込むための衝突点用超伝導収束電磁石などの設置を進め、2017年秋からビーム調整を行い、その後の本格的な実験を目指すという。

 前身のKEKB加速器はノーベル物理学賞を受賞した小林・益川理論の実験的検証に貢献したが、SuperKEKB加速器は小林・益川理論だけでは説明しきれない「反物質が存在しないナゾ」の解明に迫る成果が期待されるという。

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