
左は、最も早く種子を実らせた突然変異の系統、右は、同時に植えた突然変異処理前の優良種「エンレイ」(提供:(国)農業生物資源研究所)
(国)農業生物資源研究所と佐賀大学の共同研究グループは3月1日、大豆に高頻度でさまざまな突然変異を起こさせることに成功し、突然変異を多数含む突然変異系統の集団を作り出したと発表した。新たな性質を持つ大豆品種の開発が期待できるという。
■従来方法では獲得困難な系統を発見
放射線や化学物質を用いて突然変異を起こさせ、新品種を育種する突然変異育種は一般に行われているが、これまでの方法では変異が現れる頻度が低く、大豆では新しい性質に変化したものがなかなか得られなかった。
研究グループは今回、遺伝子DNA(デオキシリボ核酸)に変異を引き起こす作用があるエチルメタンスルフォン酸(EMS)を大豆に2世代続けて用い、高頻度に突然変異を起こさせる手法を開発した。1世代目の変異体集団の各個体から、等量ずつ種子を集め、第2世代で特定の突然変異のみが増えることがないようにし、起こった突然変異がまんべんなく残るよう工夫した。
この手法を用いて国産優良品種の「エンレイ」の種子に高頻度で突然変異を起こさせ、1,536種類の突然変異系統を作出した。このうちの12系統については全ゲノム配列を解読、突然変異は7万4,000塩基に1カ所起こっていた。
これは遺伝子が作るタンパク質に換算すると、1系統あたり、タンパク質が変化する突然変異が691個、正常なタンパク質が作られない突然変異が35個含まれていることになり、約5万4,000個ある大豆の遺伝子のほぼすべてについて、その機能を失うような突然変異を起こしているものが突然変異系統集団の中に含まれていることが推定されるという。
作出した系統の中には、早く実が登熟(穂が出た後の成熟)する系統や、大豆栄養素の含量が高い系統など、従来の方法では得ることが困難であった系統が見つかった。現在、原因遺伝子の解明や不要な突然変異を除き品種化する研究などを進めているという。