微小重力下では体長1mmの線虫でも筋力が低下
―宇宙実験で発見、運動能力は地上の6割に
:宇宙航空研究開発機構/東北大学(2016年1月22日発表)

 (国)宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東北大学は1月22日、宇宙の微小重力下では体長わずか1mm程度の小さな生物も筋肉がやせ細ると発表した。国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」でモデル動物の線虫を育てる実験による発見。重力がほとんどゼロの微小重力の下で宇宙飛行士の筋力が低下することはよく知られているが、今回の実験では土壌中から見つかった線虫のように極めて小さく軽い生物でも同様の現象が起きることが確認できた。

 

■タンパク質の遺伝子が十分機能せず

 

 研究チームは2004年と2009年の2回にわたって宇宙の微小重力下で線虫を育てる国際共同実験を進めた。特に2回目の実験では、遠心機で人工的に地上と同じ重力を再現、重力の有無により、孵化(ふか)後の線虫の育ち方や運動能力、線虫が持つ約2万個にのぼる全遺伝子の働き方などを比較・分析した。

 その結果、微小重力下で育った線虫の筋肉はやせ細り、運動能力が地上と同じ重力下で育てた線虫と比べて6割に低下していた。筋肉を構成するタンパク質の遺伝子が十分に働かなかったために低下したとみている。

 さらに、細胞が正常な役割を果たすのに必要な形状維持のための細胞骨格に関連した分子群や、細胞内小器官のミトコンドリアでエネルギー生産に必要な酵素が十分に作られないなどの現象も確認された。カロリー制限や抗老化の制御にかかわるとされる「サーチュイン遺伝子」の働きが微小重力下では上昇、宇宙ではエネルギーをあまり必要としない体になることも分かった。

 研究チームは「線虫のように大変小さく軽い生き物でも、重力が個々の細胞ごとに影響を及ぼすと考えられる」として、生物が微小重力に応じた体に変化させていることを示唆しているとみている。現在3回目の宇宙実験を進めており、宇宙で受けた生理的な影響が世代を超えて引き継がれるのかを解明する。

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