(国)国際農林水産業研究センターは1月12日、北海道大学や東北大学、中国新疆農業科学院などと共同で塩害に強い大豆に耐塩性を与えている遺伝子を発見したと発表した。ブラジルの大豆品種から耐塩遺伝子を特定、他の大豆の品種改良に利用できることを確認した。世界的な水不足などで塩類集積地が広がる中で、植物タンパクや食用油の原料として重要な大豆の塩害対策に役立つと期待している。
■塩害に強い品種開発に期待
共同研究グループが発見したのは、ブラジルの大豆品種「FT-Abyara」が持つ「Ncl遺伝子」。約600系統以上のさまざまな品種の大豆について耐塩性を評価、同品種から耐塩能力を高めている原因遺伝子を特定した。この遺伝子を持つ大豆は塩分を含む畑でも高い収量を維持することが分かった。
遺伝子の働きを詳しく分析したところ、この遺伝子は植物体内で、塩害の原因とされるナトリウムやカリウム、塩素のイオンの輸送と蓄積を調節していた。特にこの遺伝子が植物の根で効果的に活動(発現)すると、地上部分で蓄積されるナトリウムなどのイオン蓄積量が低下、大豆の耐塩性を高めていることが明らかになった。
また、実験用の塩害畑で3年間にわたって大豆を栽培・評価したところ、Ncl遺伝子を持つ耐塩性品種は遺伝子を持たない感受性品種に比べて枯れるなどの塩害症状が少なかった。できたマメの重さも平均して4.6倍もあった。
研究グループは、Ncl遺伝子を単離してそのDNA(デオキシリボ核酸)情報をもとに植物の耐塩性を簡単に調べられるDNAマーカーも開発。在来の育種技術を利用してNcl遺伝子を大豆に導入したところ耐塩性が向上、大豆の品種改良に利用できることを確認した。今後は遺伝子組み換えによって、既存の耐塩性大豆品種よりも高い耐塩性品種の開発も期待できるという。
大豆は世界で最も重要なマメ科作物で、その消費量も2000年の1.7億tから2014年の3億tに急増している。しかし、大豆の生産性はイネやトウモロコシに比べて低いうえ環境の影響を受けやすい。特に世界の灌漑耕地の約3分の1は塩害の影響を受けており、耐塩性品種の開発が求められている。