高エネルギー加速器研究機構は3月3日、(独)理化学研究所、(公財)高輝度光科学研究センター、スウェーデン・ルンド大学、デンマーク・デンマーク工科大学との共同研究により、光合成の初期過程をモデル化合物で再現することに成功したと発表した。
■人工光合成の開発に貢献期待
この研究成果は、文部科学省が平成24年度から5年計画で取り組んでいる「X線自由電子レーザー重点戦略研究課題」の支援を受け、播磨科学公園都市(兵庫)にある理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本初のX線自由電子レーザー施設「SACRA(サクラ)」を使って得たもので、3月2日付けの科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」に掲載された。
光合成は、植物で行われている光のエネルギーによって炭酸ガス(CO2)と水から有機化合物と酸素が作られる反応。植物の光合成は、葉の中にある葉緑素(ようりょくそ)とも呼ばれるクロロフィルという色素が太陽からの光エネルギーを吸収することにより電子が1つ抜け、別の分子へ移動することから始まる。
その現象は、光合成反応の初期過程の最も重要なプロセスの一つだが、約1ピコ秒(1兆分の1秒)という極めて短い時間内に進行するため、クロロフィルが光を吸収してから電子1つが移動するプロセスは、大きな謎に包まれている。
今回の成果は、その解明に近づく一歩で、光合成反応のモデル化合物内で電子が移動する過程を「SACRA」からのX線域の短波長のレーザー光を使って可視化した。
研究グループは、モデル化合物として、白金族に分類される元素の一つルテニウムとコバルトを含む分子を用意し、その分子に0.1ピコ秒(10兆分の1秒)という極めて短い時間幅で可視光を照射すると、ルテニウムから電子が1つ抜け、その抜けた電子が光照射から約0.5ピコ秒後にコバルト側に移動し、光合成の初期過程をモデル化合物で再現することができたとしている。
同機構は、この成果について「植物の光合成を理解するのに役立つだけでなく、光合成反応を模倣して、人工的に光エネルギーを化学エネルギーに変換する人工光合成の開発に役立つことが期待される」と言っている。