(独)産業技術総合研究所と東京大学は11月25日、リチウムイオン電池が充放電しているときの正極材料の詳細な電子状態を観測することに成功したと発表した。より高性能なリチウムイオン電池の開発が期待できるという。
■軟X線発光分光法で測定
リチウムイオン電池は携帯電話やノートパソコンをはじめ各種機器に搭載され、その用途、需要はますます拡大している。
この電池の正極材料には遷移金属元素のマンガン、コバルトなどを含むマンガン酸リチウムやコバルト酸リチウムが主に使用されているが、据え置き型蓄電システムや電気自動車などの大型用途に用いるには充放電容量の増大や充放電繰り返し特性の高性能化などが必要とされている。このため、近年、充放電機構の解明を目指して遷移金属元素の電子の出入りを追跡する研究が広く行われている。しかし、これまでは電子状態の詳細な情報を得ることは困難だった。
研究チームは、放射光施設で得られる軟X線を利用する軟X線発光分光法という測定方法を用いて、この解明に挑戦した。
軟X線の照射は真空を要することから、今回、特殊な構造のリチウムイオン電池を開発し、軟X線照射部は真空槽、電池セルは大気槽の中にセットして、充放電動作中の正電極中の電子状態を軟X線で観測した。
実験では充電前、充電時、放電時のマンガンの軟X線発光スペクトルを測定し、マンガン酸リチウム中のマンガンの酸化還元反応を捉えるとともに、これまで困難であったマンガン-酸素間の結合性や、3価のマンガンと4価のマンガンの比率の情報を得ることが可能になった。
今回、軟X線発光分光法によりリチウムイオン電池電極の電子の詳細な振る舞いが明らかにされたことで、充放電機構の解明を通して、今後より安定性の高いリチウムイオン電池の開発が期待されるという。

電池セルの模式図(提供:(独)産業技術総合研究所)