(独)物質・材料研究機構と中国の中国科学技術大学の研究チームは8月6日、触媒や電池などの機能材料表面の電子状態を調べる新手法を開発したと発表した。物質内部の電子の状態を調べる「電子分光法」のデータを解析する新手法を開発、これまで困難だったナノ(10億分の1)メートル単位の極めて浅い部分の電子状態を正確に計算できるようにした。新材料開発に欠かせない分析技術の高度化に役立つと期待している。
■深さ情報の元―電子の平均走行距離を正確に評価
電子分光法は、物質表面にX線や電子を照射して物質内部から跳び出してきた電子のエネルギー分布を調べる。物質内部で電子がどのような状態にあったかを正確に評価するには得られたエネルギー分布が物質表面からどの深さにある電子によるものかを評価する必要があるが、今回開発したのはその評価のための新しい理論式だ。
研究チームは、深さの情報が、測定対象の電子がエネルギーを失わずに物質内部を移動できる平均走行距離から得られることに注目。電子分光法で得られるデータから電子の平均走行距離を正確に計算する理論式を導いた。
触媒などの機能材料の特性は表面の浅い部分に存在する電子の状態に大きく左右される。しかし従来は、電子分光法で得られたデータがどの深さにある電子の情報かを区別できなかった。特に、物質表面の影響を受けやすいナノメートル単位の極めて浅い部分にある、運動エネルギー200eV(eVはエネルギーの単位=電子ボルト)以下の低速の電子では、測定の過程で電子の運動量が変化してしまい、正確に評価できないことが大きな課題となっていた。
これに対し新しい理論式では、物質内での散乱現象で電子が失うエネルギー量と運動量の変化を表す理論式を多数個組み合わせるなどの工夫をして、深さ情報のもとになる電子の平均走行距離を正確に評価できるようにした。
放射光施設から得られるX線を利用して銅やモリブデンを対象に実験したところ、新しい理論式では200eV以下の電子でも平均走行距離を正確に予測でき、電子の状態を調べられることがわかった。