豊橋技術科学大学の中鉢淳准教授(理化学研究所バイオリソースセンター客員研究員)らの研究グループは7月22日、細菌と動物の共生関係を可能にした仕組みの一端を解明したと発表した。植物の害虫「アブラムシ」の遺伝子で合成されたタンパク質を、共生細菌まで届ける輸送の仕組みがあることを明らかにした。動物と細菌の融合の解明は、光合成に必要な葉緑体を植物がどのように身に付けたかなど、進化の謎を探る重要な手掛かりになるという。研究グループには、(独)理化学研究所、岩手医科大学、東京工業大学、国立遺伝研究所も加わった。
■「オルガネラ」の進化と同様の進化が動物にも
アブラムシは植物の汁を吸いながら爆発的に繁殖するが、これを支えているのがアブラムシに栄養を提供する「ブフネラ」という細菌。この細菌は2億年にわたってアブラムシの親から子へ受け継がれ、その間に多くの遺伝子を失ったためにアブラムシの菌細胞と呼ばれる特殊な細胞の外では増殖できなくなっている。
中鉢准教授らはこれまでに、アブラムシがさまざまな細菌から遺伝子を獲得し、自らのゲノム(全遺伝情報)の一部にしていることを明らかにしてきたが、その詳しい仕組みはわからなかった。そこで今回、アブラムシが細菌から獲得した遺伝子の一つで、機能が不明だった遺伝子「R1pA4」に注目。遺伝子組み換え技術を駆使してこの遺伝子が作るタンパク質がアブラムシの体のどこに集まるかを調べた。
その結果、ブフネラがすみかにしているアブラムシの菌細胞の中、それもブフネラの細胞内に局在していることが分かった。このことから研究グループは、「アブラムシのゲノムに組み込まれたR1pA4遺伝子がタンパク質を合成した後、そのタンパク質をブフネラの細胞内に運ぶ輸送系が進化した」とみている。
細菌の共生によって動物や植物など多細胞生物が新しい遺伝子を獲得するのは生物進化の重要な道筋の一つとされているが、多細胞生物に組み込まれた遺伝子が作るタンパク質が細菌にどのように運ばれるかという輸送系については、これまで謎が多かった。今回の発見は、ミトコンドリアや葉緑体といった細胞小器官(オルガネラ)の進化と同様の進化が動物の中でも起きていることを示すものだとしている。
今回その一端が明らかになったことで「将来的には遠縁の生物を融合させる画期的な生命工学技術の開発にもつながる」と研究グループは期待している。また、環境負荷の低い害虫防除法の開発にも役立つとみている。