
市販のインクジェット用紙に印刷した有機薄膜トランシジタ。上は、家庭用インクジェットプリンターで物質・材料研究機構(NIMS)のロゴマークを印刷した紙の上に室温印刷で素子を形成、下は、素子の拡大図(提供:物質・材料研究機構)
(独)物質・材料研究機構と岡山大学、(株)コロイダル・インクは5月8日、高温処理を一切必要としない室温印刷による有機薄膜トランジスタ形成プロセスを世界で初めて確立したと発表した。加熱による基板の伸縮や破壊が生じないため、熱に弱いプラスチックや紙、布、生体材料などのフレキシブル基板上にトランジスタを作るプリンテッドエレクトロニクスの本格的な展開が期待できるという。
■微細な回路を高精度で印刷
プリンテッドエレクトロニクスは電極材料、半導体材料、絶縁材料などの、主に有機物製電子素子材料をインク状にし、印刷によって半導体回路を形成する技術。低コストで大面積の素子を作る技術として注目されているが、これまでは電極として用いる金属ナノ粒子インクなどに熱処理が必要だったため、耐熱性のないフレキシブル基板上に作ることは難しかった。
(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受けた共同研究チームは、2つの技術を開発し、室温プリンテッドエレクトロニクスを確立した。
1つは、金属ナノ粒子をインクに分散させるための配位子と呼ばれる化合物の置き換え。これまで配位子には絶縁性の材料が用いられ、導電性の金属被膜を得るのにナノ粒子を焼結させる必要があったが、今回、これを導電性のある芳香族性の分子に置き換え、焼成することなく、室温で塗布乾燥させるだけで金属被膜を作製できる金属ナノインクを開発した。
もう1つは、精密なパターニングが可能な選択的成膜技術の確立。表面に微細な親水・疎水領域を形成し、濡れ性の違いを利用して親水領域にのみインクを塗布し成膜する。これらにより、ソース・ドレイン電極、有機半導体層、ゲート絶縁層、ゲート電極の4層から成る有機薄膜トランジスタを室温下での印刷によりフレキシブル基板上に作製することに成功した。
性能試験の結果、プラスチックや紙基板上に形成した有機薄膜トランジスタは、アモルファスシリコン薄膜トランジスタの性能(移動度)を大きく上回ったという。研究チームは、プリンテッドエレクトロニクスの様々な応用展開を可能にする成果が得られたとしている。