筑波大学と高エネルギー加速器研究機構は2月21日、青い顔料として知られるプルシャンブルー類似体の仲間に強いレーザー光を照射することで一瞬だけ磁気的な状態を変えることに成功したと発表した。わずか32ナノ秒(ナノは10億分の1)続くだけですぐ元の状態に戻ってしまう準安定状態だが、その存在が確認できたことで将来プルシャンブルー類似体が光で情報を記録・処理する光メモリーや光回路用の材料として応用できる可能性が出てきたという。
プルシャンブルー類似体はジャングルジムのような格子構造を持ち、隙間にさまざまなイオンを取り込むため、最近はセシウム除去剤や二次電池の正極材料などの有力候補としても注目されている。筑波大の守友浩教授らと高エネ研の足立伸一教授の共同研究グループは今回、その仲間の「コバルトプルシャンブルー類似体」を用いて実験した。
この類似体には含まれるコバルトの比率で何種類かがあるが、このうち「NCF71」と呼ばれる類似体は、熱で物質の性質ががらりと変わる相転移が起きる。具体的には、この類似体の薄膜は絶対温度210度(-63℃)以下では紫だが、それ以上で赤に変わる。
これに対し研究グループは、同じ類似体の仲間である「NCF90」の薄膜でも10兆分の1秒という短いパルス状のレーザー光を照射すると、32ナノ秒間だけ続く準安定状態に相転移することを見出した。NCF90はこれまで熱では相転移が起こらず、準安定状態の存在は知られていなかった。
そこで、新たに見つかった準安定状態を高エネ研の放射光施設を利用して詳しく調べた。その結果、類似体の格子構造が一様に広がって格子を構成するコバルトの一部がレーザー光を吸収して励起(興奮)した状態になり、新しい磁気状態が実現していることが強く示唆されたという。
No.2013-7
2013年2月18日~2013年2月24日