(独)物質・材料研究機構と東京大学物性研究所は6月15日、ボルボサイトという銅鉱物の単結晶に、これまで知られていなかった電子軌道の切り替え現象が起こることを発見したと発表した。研究チームはこれを「軌道スイッチング」と命名、今後この現象の理解を深め、制御方法などを探究したいとしている。
ボルボサイトは銅、バナジウム、酸素などから成る遷移金属酸化物の一種。近年、新奇な現象を示す新材料の候補の一つとして注目され、これまで多結晶試料を用いた物性研究が行われてきた。研究チームは今回、合成プロセスに工夫を加え、世界で初めて単結晶を作製することに成功、その構造、物性を調べたところ、室温付近で構造相転移が起こることを見出し、それに付随して現れる「軌道スイッチング」現象を発見した。
巨大磁気抵抗効果を示すマンガン酸化物(遷移金属酸化物の仲間)などで起こる通常の相転移では、相転移が起こる温度を境に、電子が占有する軌道秩序は一種の秩序・無秩序転移として定義される。これに対して今回観測された「軌道スイッチング」は、ある秩序状態から別の秩序状態への相転移で、これまでの軌道秩序とは質的に異なるものだった。また、この軌道スイッチングは単結晶でのみ観測されることが分かったという。
軌道スイッチングは、特異な物理現象を誘起したり磁気的状態に影響を及ぼしたりすることが考えられており、研究チームは今回の発見を手掛かりにそれらの研究を深めたいとしている。
No.2012-24
2012年6月11日~2012年6月17日