(独)物質・材料研究機構は6月13日、米国のオークリッジ国立研究所と共同で30℃付近を境に電気を通す導電体から絶縁体に転移する新物質を開発したと発表した。同種の物質はこれまでも知られていたが、従来はマイナス50℃程度にまで冷やさないと転移が起きず、産業応用は難しいとされていた。今回、初めて室温レベルで転移する物質が開発されたことで、新しい熱電変換材料の実現など産業分野への応用も期待できるという。
開発したのは、同機構超伝導物性ユニットの山浦一成主幹研究員らの研究グループ。セラミックスを主な対象として高温超伝導などの研究を進める過程で新物質「ぺロブスカイト型オスミウム酸化物」の合成に成功した。
新物質は磁性と導電性を持つセラミックスの一種だが、詳しく調べたところ導電性があるのは140℃以上の高温領域で、それ以下の温度にすると急速に導電性を失った。さらに室温レベルの30℃付近以下になると、完全な絶縁体になることが分かった。
導電体から絶縁体への変化がなぜ起きるかについては、オークリッジ国立研究所と共同で中性子回折などの手法を用いて結晶構造を解析、導電性の変化と磁性などとの関連を詳しく分析した。その結果、従来から同様な転移を起こす「スレーター絶縁体」と同じメカニズムで転移が起きていることが強く示唆されたという。
ただ、スレーター絶縁体は、モデル物質が少なく研究例が限られており、十分な解明が進んでいなかった。研究グループは、今回の成果によってその仕組みの解明に弾みがつき、新しい特性の材料開発だけでなく、固体素子の実現など産業応用にもつながると期待している。
No.2012-24
2012年6月11日~2012年6月17日