LSIの消費電力大幅に低減
―新トランジスタを開発
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は6月11日、LSI(大規模集積回路)の大幅な消費電力低減が期待できる「高性能ひずみゲルマニウム(Ge)ナノワイヤトランジスタ」を開発したと発表した。シリコン半導体製回路の微細化による電源電圧低減の限界を突破できる次世代タイプのトランジスタで、世界最高レベルの高い電流駆動力が得られたという。
 IT機器の機能向上や普及に伴ってIT関連の消費電力が増大しており、機器を構成する回路素子(LSI)の消費電力低減が課題になっている。従来は、トランジスタの微細化などによって低減が図られてきたが、必要な電流値の確保など技術的に困難な課題が増え、低減のペースは近年、電源電圧1V程度で足踏みしているのが実情。
 電流通路(チャンネル)が平面型構造の現行のシリコン製素子ではこの改善は難しいとされ、シリコンの代わりにゲルマニウムを用いたり、チャンネル構造を立体化したりするなどの研究が活発化している。
 産総研の連携研究体グリーン・ナノエレクトロニクスセンターの研究チームは、今回ゲルマニウムを用い、チャンネルが断面サイズ数十nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度以下の細い棒状構造をしたナノワイヤトランジスタを試作、その際、2つの特徴的な要素技術を開発、導入することにより、低電圧動作が可能なトランジスタの実現に成功した。
 1つは極めて大きな圧縮ひずみを持つナノワイヤの形成、もう1つは不純物を注入することなく電極と半導体との電気的接触を得る技術。圧縮ひずみ効果で正の電荷をもつ正孔の移動度は、シリコントランジスタの約8倍に増大、また、電極をニッケルとゲルマニウムの合金とすることで、不純物注入に伴うトランジスタ特性のばらつきを抑制した。
 研究チームは、今後このトランジスタを用いて回路を作り、電源電圧低減効果などを明らかにしたいとしている。

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試作したゲルマニウムナノワイヤトランジスタ断面の透過電子顕微鏡像(提供:産業技術総合研究所)