(独)産業技術総合研究所は12月3日、マイナス196℃の極低温から1,000℃の高温までの幅広い温度範囲でゴムのような粘弾性を持つ新素材を開発したと発表した。過酷な環境下で衝撃や振動などのエネルギーを吸収する軽量な材料としての用途開拓が期待できるという。
開発した新材料は、ナノテクノロジーの代表的な素材であるカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)でできている。スーパーグロース法と呼ばれるカーボンナノチューブの製法を用いると、長さ数μm(マイクロメートル、1μmは100万分の1m)以上の“超長尺”の高純度カーボンナノチューブを高効率で合成できる。
研究チームは、ナノチューブの成長を促す触媒を反応性イオンエッチング法という方法で調整することにより、超長尺のカーボンナノチューブが縦横に絡み合ったネットワーク状の構造体を合成することに成功した。さらに、その構造体を圧縮して密度を4倍にし、過酷な温度下でも性能が変化しないカーボンナノチューブ粘弾性体(CNT粘弾性体)を得た。試作したCNT粘弾性体は、縦横10mm、厚さ2mm、密度は1立方cm当たり0.036g。
鉄球を落として粘弾性を試験したところ、-196℃、25℃、1,000℃でいずれも形状に変化は起きなかった。また、動的粘弾性、貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接という評価試験を-140℃から600℃までの範囲で行ったところ、計測値は温度によらずほぼ一定であった。ひずみを繰り返し100万回加える耐久性試験後もこれらの値に変化はなかったという。
さらに周波数に依存しない粘弾性も確認されたという。この粘弾性体は、空隙率が高く熱伝導率が良いので、ひずみによる熱エネルギーが効率よく放熱され、安定した粘弾性を示すのではないかと研究チームは考えている。
産総研は、今後資料の提供などを通じて企業と協力し、用途開拓につなげたいとしている。
No.2010-47
2010年11月29日~2010年12月5日