昆虫が足を擦る秘密をナノテクノロジーで解明
:物質・材料研究機構/マックスプランク研究所

 (独)物質・材料研究機構は11月9日、マックスプランク研究所(ドイツ)との共同研究で、ナノテクノロジー(ナノ材料加工技術)を用いた実験により、昆虫が摩擦(足の滑りやすさ)により汚れを感じていることを解明したと発表した。
 共同研究では、環境問題で求められている「接着と分離」を繰り返すことができる新しい接合技術を開発するために、ガラスのような平坦な表面を逆さまでも歩行できる昆虫の足の裏の優れた接着性に着目した。
 ハエやハムシのような昆虫がガラスの表面を逆さまでも滑らずに歩行できるのは、足の裏に接着性の優れた特殊な毛が生えているためで、その接着性は表面の粗さ(凹凸)の影響を受ける。しかし、昆虫の歩行調査に必要な非常に微細な表面の粗さを作り出すことが難しく、これまで詳しい歩行調査は行われていなかった。
 研究では、まず昆虫(ハムシ)の歩行調査に必要な平坦表面として、凹凸の粗さが数nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)から300nmの平坦表面を自由に作りだすナノテクノロジーを開発し、様々な凹凸の粗さがある樹脂表面を作って昆虫の歩行調査を可能にした。
 研究グル-プは、その歩行調査で、昆虫がすぐに足を擦り始める特別な表面を発見した。この特別表面は、ナノテクノロジーで作り出した約100nmの粗さがある表面で、ガラスのような平坦な表面では1分間の観察時間に足を擦り合わせた昆虫は全くいなかったが、特別表面では同じ1分間に6割が足を擦り合わせた。さらに詳しく調べたところ、特別な表面では、昆虫の足の裏の接着性が失われて滑りやすくなり、摩擦力が97%も減少して歩行困難になることが分かった。
 昆虫は、足が汚れると足を擦る行為(グルーミング)を始めるが、どのようにして汚れを感知するのかはこれまで明らかでなかった。今回の歩行調査では、特別表面で昆虫は足が汚れていないのに足を擦る行為を増やすことを見出した。このことから摩擦の減少(足の滑りやすさ)を感知し、それを「汚れ」と感じて足を擦って取り除こうとする行為(グルーミング)を行っていることが証明された。
 この研究成果は、ナノテクノロジーと生体模倣研究「バイオミメティクス」との融合によるもので、廃棄物の物質リサイクルに求められる「接着と分離」や、生体模倣による新しい材料機能の開発などに活用できるものと期待される。

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