(独) 宇宙航空研究開発機構は7月5日、月周回衛星「かぐや」による月全球表面の観測により、月の形成・進化の謎のカギを握る月内部からのカンラン石の月表面における分布とその起源が、世界で初めて明らかになったと発表した。 ケイ酸塩鉱物の一種であるカンラン石は、月の「マントル」と呼ばれる地下深部の層構造の主となる鉱物と考えられている。カンラン石は、比重が大きい(重い)ために沈み込んでしまい、通常は月の表面には現れないが、クレーターを形成するような巨大衝突の際に地下深部から月表面に飛び出だしたものと考えられている。 これまで、地球上からの観測や探査機による探査では、月面の数カ所でカンラン石の多い領域があることが報告されているだけで、それもマントルに由来するものなのか、より浅い地殻下部のマグマに由来するのかも、分かっていなかった。 今回、研究グループは、月周回衛星「かぐや」に搭載された月表面の鉱物組成を調べる観測装置スペクトルプロファイラ(SP)を用いて、月全球にわたる7,000万点にも及ぶ月面の分光特性の観測を行った。得られたデータを、カンラン石が持つ特有の波長である中心波長1.05μm(マイクロメートル、1μmは100万分の1m)の吸収帯に着目して解析したところ、カンラン石に富む領域を新たに31カ所(観測点としては、約250点)発見した。また、過去の検出報告の多くは誤りであることが分かった。 以前から報告されていた3カ所を含むカンラン石に富む34の領域は、どれも地殻の薄い巨大衝突盆地の周りに限られており、月の裏側などの地殻の厚い部分や、従来カンラン石に富むのではないかと考えられていた中程度のクレーターの中央丘にはほとんどカンラン石は見出されなかった。これらのことから、月の表面に見出されたカンラン石は、かなり深い(約100km)ところにある物質、すなわちマントルが巨大天体の衝突によって揺り起こされたものと考えられるとしている。 さらに、今回見つかった領域の反射スペクトルを詳細に解析したところ、カンラン石に富む岩石の中でも、マントル起源と考えられるダンカンラン岩(ダナイト)に非常に近く、月の下部地殻にあると考えられているトロクトル岩(トロクライト)とは一致しないことも分かった。これも月表面で検出されたカンラン石が、マントル起源であることを裏付けている。 この研究成果は、7月4日発行の英国の科学誌「ネーチャー・ジオサイエンス」に掲載された。 詳しくはこちら |  |
月面の「危機の海」周辺のカンラン石に富む領域(赤い丸)(提供:宇宙航空研究開発機構) |
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