高エネルギー加速器研究機構と慶應義塾大学の共同研究チームは8月24日、固体の最表面にある分子の種類と量を追跡できる世界最速の軟X線吸収分光法を開発したと発表した。排ガス浄化触媒などの表面で起こっている化学反応を高速で観察できるため、触媒反応の仕組みの解明や新たな触媒の開発に威力を発揮するという。
触媒は、化学反応を助け促進する働きを持つ物質。自動車に搭載されている触媒は、「不均一系触媒」と呼ばれ、この触媒に排気ガスを通すと、一酸化炭素や窒素酸化物などの有害ガスが触媒表面で化学反応を起こし、無害な分子になって出てくる。
不均一系触媒の高性能化には、触媒の働く場である触媒最表面における分子の様子を直接観察することが重要で、そのための手法の一つとして近年軟X線吸収分光法が用いられている。ただ、軟X線吸収分光法は、分子の種類を区別し、わずかな分子まで検出できるものの、1つのデータを得るのに数分もかかってしまい、触媒表面で実際に起こっている高速の反応を追跡することはできなかった。
同研究チームが今回開発したのは、軟X線吸収分光法を進歩させた「波長分散型軟X線吸収分光法」と呼ばれる手法。測定したい表面の位置によって波長が少しずつ異なる軟X線(波長分散した軟X線)を照射し、それぞれの位置で吸収された軟X線に応じて放出される電子を別々に取り込むことによって、一度に様々な波長に対する吸収の大きさを得るというもの。波長と吸収の大きさのスペクトルから表面にある分子の種類と量を正確に求めることができる。
この手法を、強力な軟X線が得られる高エネルギー加速器研究機構の放射光科学研究施設(茨城・つくば市)のビームラインに取り付け、ビデオと同じような1秒間に30コマの高速連続測定を可能にした。最も基本的な触媒反応である一酸化炭素と酸素のイリジウム表面での反応を対象に観測実験し、追跡性能を確認できたという。
同研究チームは、今後この手法を使って自動車用触媒だけでなく、様々な触媒反応の仕組みの解明を進めたいとしている。
No.2011-34
2011年8月22日~2011年8月28日