高エネルギー加速器研究機構は7月15日、大阪大学の若林裕介准教授を中心とする研究グループが同機構の放射光施設「フォトンファクトリー」を用いて、ある種の絶縁体表面に別の絶縁体薄膜を形成するとその界面に導電性を持つ金属層が現れる仕組みを世界で初めて解明したと発表した。絶縁体薄膜を重ねた構造は、高集積化が進む電子素子に欠かせないが、これまで界面に現れる導電性の仕組みは謎だった。こうした現象は、パソコンなどに使われる電子素子が予期せぬ不具合に見舞われる原因になるが、反対にこの性質を積極的に利用すれば新しい電子素子の開発にもつながると期待される。
実験では、絶縁体のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の表面に、絶縁体のアルミン酸ランタン(LaAlO3)の薄膜を形成。フォトンファクトリーのX線を利用して、絶縁体界面の結晶構造などと導電性の関連を解析した。
チタン酸ストロンチウムは、表面に酸化チタン、または酸化ストロンチウムが顔を出している場合があるが、酸化チタンが出たものを基盤としてアルミン酸ランタンを5層形成したものでは、界面から基盤側に数nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の深さまで電荷分布が偏る「分極」が起きていることが分かった。一方、酸化ストロンチウムが表面に出た基盤の場合は、分極の深さは1nm程度にとどまっていた。
従来の研究から界面の電気伝導は、10nm程度の範囲で起きていることが分かっている。このため研究グループは、酸化チタンが表面に出た基盤を使った場合の分極の幅が電気伝導の起きる範囲とよく対応しているとして、分極の違いが導電性の違いを生んでいると結論付けている。
No.2011-28
2011年7月11日~2011年7月17日