「強相関電子」を閉じ込めることに世界で初めて成功
:高エネルギー加速器研究機構/東京大学/科学技術振興機構

 高エネルギー加速器研究機構と、東京大学、(独)科学技術振興機構は7月13日、「強相関電子」を2次元空間に閉じ込めることに世界で初めて成功したと発表した。これまでの電子デバイスに代わる強相関電子デバイスとも呼べる新規デバイスの開発に突破口を開く成果で、強相関電子が機能や性能の鍵を握る高温超伝導体などの飛躍的な発展も期待できるという。
 強相関電子は、ほぼ自由に振舞う金属や半導体の電子とは異なり、一定の空間内に閉じ込められ密集した電子が互いに強く作用し合い、集団としてかろうじて動くような状態にある電子のこと。銅酸化物の高温超伝導体は、強相関電子を持つ典型的な物質で、このような物質を強相関酸化物と呼んでいる。巨大磁気抵抗効果を示すマンガン酸化物もその仲間で、これらの物質はいずれも伝導を担う伝導層が絶縁層に挟まれた2次元的な層状構造を持つ。
 研究グループは、この層状の結晶構造と、高性能半導体レーザーなどを生み出している量子井戸構造との類似性に着目、結晶成長法の一つであるレーザー分子線エピタキシーという技術を用い、量子井戸構造を作製するのと同じ要領で強相関酸化物の一つであるバナジウム酸ストロンチウム(SrVO3)の2次元的な層状構造を作り出した。
 量子井戸構造は、井戸のような形をしたエネルギーバリアーにより、きわめて薄い伝導層の内部に電子を閉じ込めるようにしたもので、電子の運動が制限され、飛び飛びの値を持つ(量子化する)。今回は、強相関酸化物を材料に層状構造を作製、強相関電子を閉じ込めた。
 高エネルギー加速器研究機構の放射光施設を利用し、放射光による高精度分光法で電子の振る舞いを詳細に調べたところ、強相関電子が2次元空間に閉じ込められていることを確認、また、バナジウム酸ストロンチウム層の数を増やすことで、不連続になった電子状態(量子化状態)を制御できることを見出したという。
 強相関酸化物は、電子の電荷だけではなく磁気的性質であるスピンなども利用してさまざまな機能の実現が期待されているが、伝導層に閉じ込められた強相関電子の振る舞いを制御することが機能を制御するための鍵となることから、強相関酸化物の構造を制御して強相関電子の状態を制御することが望まれていた。
 今回の成果によって、強相関電子の振る舞いを人工的にコントロールする道が開けたことになり、強相関エレクトロニクスへの発展をはじめ、人類の夢であった室温超伝導体の開発も期待されるとしている。

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