(独)産業技術総合研究所は7月5日、(財)高輝度光科学研究センター、(独)日本原子力研究開発機構、大阪大学と共同で、希土類金属水素化物が水素濃度によって取りうる結晶構造の一般則を確立したと発表した。希土類金属を用いた水素吸蔵材料の設計指針への活用が期待できるという。
希土類金属は、ランタン、ルテチウム、イットリウムなど計17の元素を指す。希土類金属原子1個当たり最大で3個の水素原子を吸収して高濃度水素化物となることから、水素吸蔵材料の構成元素として注目されている。これまでの研究によると、希土類金属水素化物が水素濃度に応じて取りうる結晶構造は、ほぼ全ての希土類金属に共通していて、金属の価数(原子価)が+3のとき、金属原子1個当たり2個の水素原子を吸収した二水素化物は「面心立方金属格子」を、3個吸収した三水素化物は「面心立方格子」もしくは「六方最密金属格子」をとることが知られている。
ところが、例外がユーロピウムで、ユーロピウムは1気圧の水素雰囲気下で二水素化物を形成するが、その結晶構造は斜方晶で、価数は+2。高温水素環境下でもその水素吸蔵量や価数は変化せず、斜方晶のまま安定している。希土類金属水素化物の構造則は、この例外のために確立されないままだった。
ただ、そうした中でもユーロピウム水素化物を数万気圧の水素中に置くと、多くの水素が吸収されて三水素化物が形成されることや、結晶構造、価数に変化が起きることが予想されていた。
そこで、研究グループは、超高圧を発生できるダイヤモンドアンビル装置の中にユーロピウム水素化物と水素を封入して超高圧を加え、大型放射光施設「SPring-8」(兵庫・播磨科学公園都市)のビームラインを用いて、1万気圧を超える高い水素圧力にさらされたユーロピウム水素化物の結晶構造の変化と原子の価数状態を観測した。
その結果、従来知られている二水素化物よりも水素濃度が高く、ユーロピウムの価数が+3で、面心立方金属格子を持つ結晶構造相が出現することを確認した。これにより、ユーロピウム水素化物も他の希土類水素化物と同じ構造則に従うことが証明されたことになり、全ての希土類金属水素化物に共通する水素濃度によって取りうる結晶構造の一般則が確立されたという。
今回確立した構造則は、価数によって材料の結晶構造、水素濃度がコントロールできる可能性を示唆している。水素吸蔵材料の開発に寄与するだけでなく、水素と金属格子との相互作用を利用した電子・磁性材料開発への波及効果も期待できるとしている。
水素濃度は希土類金属水素化物を合成する際の水素ガスの圧力や温度、合成方法で決まる。
No.2011-27
2011年7月4日~2011年7月10日