(独)物質・材料研究機構は7月5日、未来のコンピューターと期待される量子コンピューターの有力候補の一つとされる「固体NMR(核磁気共鳴)量子コンピューター」の新しい操作原理を発見したと発表した。固体中の核スピン間の相互作用が光照射のオン・オフで操作できることを見出したもので、量子コンピューターの実現に向け一つ足場が固まった。
この方式のコンピューターは、量子力学の原理を利用する量子コンピューターの中では最も有望な大規模コンピューター方式といわれ、固体(主として半導体)中の原子核スピンで、現在のコンピューターでいうビット(量子ビット)を構成する。実現すれば、数十桁もある膨大な数値の因数分解や素数調べなど今のコンピューターでは時間が掛かり過ぎて事実上計算できない問題も解けると期待されているが、数ビットの計算が実現しているに過ぎない。
それを乗り越えるための課題は、量子ビットを構成する原子核スピン間の相互作用を制御する操作手法の開発とされてきた。その相互作用は、コンピューターが計算をしている間だけ働き、計算しない時は切れている、つまり、スイッチングができないとならないが、これまでは複雑な操作が必要で、技術的にも難しかった。そこで同機構は、独自に開発した装置などを使い代表的な化合物半導体である砒化ガリウム(GaAs)を対象に研究した。
その結果、光照射のオン・オフという単純操作だけで、ガリウムと砒素の間の核スピン同士の相互作用をスイッチイング操作できるばかりでなく、光の照射強度を強くすると、その相互作用の到達距離を長くできることも分かった。
この新発見の原理を核スピンを適切に配置した構造に適用できれば、固体NMR量子コンピューターの実現に欠かせない原子核スピン間のスイッチイング動作が行える。
同機構は、「原理発見の段階で、実用化に当たっては多くの課題があるが、核スピンの制御技術として発展が期待される」としている。
この研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略型創造研究推進事業・個人型研究の一環として行われ、成果は英国の科学雑誌「ネイチャー・コミニュケーションズ」の電子版7月6日号に掲載された。
No.2011-27
2011年7月4日~2011年7月10日