(独)産業技術総合研究所は6月22日、再生医療の切り札として期待されているiPS細胞(人工多能性肝細胞)の安全性評価や品質評価に結びつく糖鎖プロファイリング技術を開発したと発表した。
iPS細胞は、多様な細胞に分化できる多能性を持った人工幹細胞。京都大学の山中伸弥教授らが用いた「山中4因子」と呼ばれる4つの遺伝子を、分化の終わった成人の体細胞のDNA(デオキシリボ核酸)に入れると体細胞が未分化状態に戻る、いわゆるリプログラミングが起き、組織や臓器などの再生が期待されている。ただ、導入する遺伝子の中にがん遺伝子もあるため、がん化問題の克服が主要な課題の一つになっている。
がん化と関係が深いと見られている糖鎖の解析に取り組んでいる産総研の研究チームは今回、糖鎖を高精度に比較解析できる糖鎖プロファイリング技術を開発、それを用いてiPS細胞と糖鎖との関係の解明や新たな現象の発見に成功した。
糖鎖は、ブドウ糖など約10種類の単糖が鎖状につながった物質で、細胞上ではたんぱく質、脂質と結合した形で存在しており、人体には数百種類以上の多様な構造の糖鎖があると見られている。その構造は、複雑で解明しにくい点が多いため、糖鎖に結合し易いたんぱく質レクチンを用いて全体像を比較解析する手法が糖鎖プロファイリング。
研究チームは、96種類のレクチンをスライドガラスに固定した「高密度レクチンマイクロアレイ」を作って調べ、いくつかの新事実を見出した。その一つは、糖鎖構造のリプログラミング。初期化遺伝子の導入によってiPS細胞が作製される際に全遺伝子の発現パターンがリプログラミングされるが、それだけではなく、iPS細胞表面の糖鎖構造も同時にリプログラミングされることを発見した。
また、国立成育医療センターの協力を得て4つの異なる組織から114種のiPS細胞を作製し糖鎖プロファイルを測定したところ、元の体細胞は組織ごとに異なる糖鎖プロファイルを持っていたにもかかわらず、作製されたiPS細胞はいずれも同じ糖鎖プロファイルを示し、初期化遺伝子の導入によって一様な糖鎖構造が作られることが分かった。このiPS細胞の糖鎖プロファイルは、受精卵由来の多能性幹細胞であるES細胞(胚性幹細胞)のそれとほぼ一致していることも判明した。
さらに、未分化細胞とは反応し、分化済みの体細胞とは反応しないレクチンが存在し、これまで知られるプローブとは異なる分子を認識している可能性があること、また、iPS細胞を作製する際に用いるフィーダー細胞(培養の下敷きとして使う細胞)の混入を検出できるレクチンがあることも発見した。
これらの成果は、糖鎖プロファイリング技術によって各種幹細胞の品質、安全評価が可能であることを示しており、再生医療の実用化に寄与できるとしている。
No.2011-25
2011年6月20日~2011年6月26日