(独)農業生物資源研究所は6月20日、東北大学、(独)理化学研究所と共同で、イネの体内リズムが乱れる突然変異体を発見し、その原因が体内時計に関わる遺伝子(Os-GI遺伝子)の機能消失によるものであることを見つけたと発表した。
多くの生物は、体内時計と通常呼んでいる内在性のリズム生成機構を持っている。この体内機構は、光や温度変化といった環境の日周変動をキャッチして、正確に24時間周期でリズムを刻むことができる。
イネは、短日植物として知られ、短日条件(昼時間が短い条件)では、昼時間が長い長日条件より早く開花する。ところが、日の長さを感じるのに必須な光受容体(センサー)が壊れると、どの条件でも早く開花する品種が現れる。この品種にガンマー線を照射したところ、短日条件でも、長日条件と同じくらい遅く開花する突然変異体イネが現れた。その変異体イネを調べた結果、体内時計に関わる遺伝子(Os-GI)の機能が失われ、体内リズムが乱れることが原因であることが分かった。
今回の研究では、水田(自然環境)で栽培した正常なイネとOs-GI変異体イネについて、遺伝子発現の状態をマイクロアレイ解析法という手法を用いて網羅的に解析した。その結果、正常イネでは遺伝子発現パターンが24時間周期で徐々に変動する日周変動リズムを示したが、Os-GI遺伝子の機能が消失し体内リズムが乱れた変異体では、昼型と夜型の2つの型で切り替わる単純な変動リズムを示した。これによって、Os-GI遺伝子が体内リズムに関与していることが分かった
また、水田で栽培したOs-GI変異体イネでは、葉の光合成能力は正常で、全体の収量に変化はなかった。ところが、Os-GI変異体イネの田植え時期を、通常より2週間から1カ月ほど遅らせて栽培すると、正常イネと比較して稔性が低下して収量も大幅に低下した。これらの結果は、イネでは体内時計が欠損しても適切な環境で生育させる限り収量に大きな影響は出ないが、日照が低下するなどイネにとってストレスのある環境で生育させると、その環境にうまく適応できず収量が大きく低下することを示している。
この研究は、実際の農業現場である圃場(ほじょう)で作物の体内時計を調べた世界初の研究で、今後異なる作期や栽培地域に適した品種の育成を進める際、体内リズムを指標とした選抜を行うことで、環境適応能力の高い品種を得ることができると期待される。
No.2011-25
2011年6月20日~2011年6月26日