(独)農業・食品産業技術総合研究機構の動物衛生研究所は1月25日、宮崎大学などとの共同研究で、腸管出血性大腸菌「O(オー)157」には、転移因子(動く遺伝子)をゲノム(全遺伝情報)から取り除く仕組みがあり、その際新たに見つけたタンパク質「IEE」が重要な役割を果たしていることを発見したと発表した。
細菌、特に病原性細菌のゲノムには、多くの転移因子が存在しゲノム上を頻繁に転移(移動)している。転移因子とは、ゲノム上のある場所から別の場所に転移することが可能な塩基配列のことで、細菌をタイピング(分類)するための有効な手段(指標)として利用されている。
転移因子の転移には、[1]移転元にオリジナルな分子が残らない「カット&ペースト型」と、[2]オリジナルの複製分子が転移する「コピー&ペースト型」の2種類が知られている。これまで「カット&ペースト型」転移は、ごくまれにしか起こらないと考えられていたが、最近、O157では必ずしもそうではなく、「カット&ペースト型」転移も起こっていることが分かってきた。
研究グループは、「カット&ペースト型」転移で、転移因子の切り出し(カット)が起こる効率を測定する方法を開発し、様々な大腸菌についてその効率を測定した。その結果、転移因子の切り出しの起こる効率が高い菌が共通して持っている新しい遺伝子を世界で初めて発見し、この遺伝子から作り出されるタンパク質を「IEE(insertion sequence-excision enhancer)」と命名した。
この研究で、O157では、IEEの働きにより「カット&ペースト型」転移が頻繁に起こることが明らかになった。また、IEEによって引き起こされる大腸菌ゲノムの大規模な欠失により、ゲノムに多様性が生じることも分かった。
この研究成果は、1月11日に英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」(電子版)に掲載された。
No.2011-4
2011年1月24日~2011年1月30日