日本近海のサンゴ分布、水温上昇で北に拡大
:国立環境研究所

 (独)国立環境研究所は1月21日、日本の温帯域でサンゴの分布が北へ拡大し、その速度は年14kmに達していることが明らかになったと発表した。近年の水温上昇に伴う現象で、サンゴ北上を全国規模で検出したのは世界で初めてという。
 サンゴは、熱帯や亜熱帯でサンゴ礁を形成して他の生物に生息場所を提供すると共に、光合成による一次生産を担う生態系の基盤となる生物。日本は、サンゴ(サンゴ礁と造礁サンゴ)の分布北限域に位置している。日本近海の冬季の海水温は、過去100年間に1.1~1.6℃上昇しており、水温上昇によるサンゴ分布の変化を捉えれば温暖化の生態系への影響評価などにつながる。
 そこで環境研は、約80年間の分布状況と、その変化を全国規模で調査した。天草(熊本)、五島(長崎)、壱岐(同)、対馬(同)、土佐清水(高知)~大月(同)、串本(和歌山)~白浜(同)、伊豆(静岡)、館山(千葉)の温帯8海域と、種子島(鹿児島)、トカラ(同)の亜熱帯2地域において、1930年代、1960~70年代、1980~90年代、2000年代の4時期の文献情報を収集、さらに最新の状況を現地調査し、80年間にわたるサンゴ出現データベースを作成した。
 その結果、追跡調査などができる9種のサンゴの内4種が北へ分布を拡大していることが判明した。分布が南に移動したり縮小した種はなかった。北上を示した4種は、いずれも1998年に起こった世界的なサンゴの大規模白化現象以降に「準絶滅危惧」および「絶滅危惧Ⅱ類」に分類された仲間。このことは、熱帯のサンゴが高水温による白化で衰退している現在、温帯域がサンゴの避難地として機能していることを示している、と環境研は見ている。
 サンゴ分布拡大速度は出現データを基に計算した結果、年14kmに達した。この速度は、他の生物分布の北上あるいは拡大速度の平均値年0.61kmよりもはるかに大きい。黒潮や対馬暖流によるサンゴ卵と幼生の北への輸送が大きな速度の一因と考えられるという。同様に海流が熱帯、亜熱帯から極方向に流れる北アメリカ東岸やオーストラリア東岸などの海域でも、海洋生物分布の極方向への移動や拡大が急速に起こっている可能性が推測できるという。環境研の地球環境研究センターは今回の結果に基づき、日本周辺のサンゴ分布変化のモニタリングを予定している。

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