レーザー光照射で100億分の1秒だけ現れる新しい物質構造の検出に成功
:高エネルギー加速器研究機構/東京工業大学/東京大学/名古屋大学

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)は1月17日、東京工業大学、東京大学、名古屋大学と共同で、パルスレーザー光(パルス状の高強度レーザー光)の照射を受けた物質内部の原子が規則正しく動くことによって、100億分の1秒間だけ出現する過渡的な新しい物質の構造を、KEKの「放射光科学研究施設(PF-AR)」を用いて検出することに世界で初めて成功したと発表した。
 今までの物質科学は、安定で時間的に変化のない「静的」な物質の構造を基本として考えられてきた。その一方で、光によって色や形、磁気的・電気的性質など様々な特性を変化させる「光機能性物質」と呼ばれる材料の開発では、時々刻々変化する「動的」な構造を原子レベルで知ることが必要で、喫緊の課題になっている。
 KEKなどの研究グループは、物質の高速な状態変化を、原子サイズの分解能で動画として観測するため、KEKのPF-ARに時間分解X線ビームライン「NW14A」を設計・建設した。このビームラインでは、極めて短時間だけ流れるレーザーパルスとX線パルスを交互に繰り返して入射する方法(ポンプ・ブローブ法)により、周期的に非常に短い間だけ出現する新しい状態を100ピコ秒(100億分の1秒) 幅のX線を用いて捕えることができる。
 一方、試料の面では、厚さ80nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の薄膜形状の結晶を「パルスレーザー堆積法」という方法で作製した。このような試料開発により、わずかな量の結晶でも新しい原理に基づく物質・材料開発が行えること、さらには光デバイスなどに有用な超薄膜そのもので、光励起によって生ずる状態の動的構造研究が可能なことが実証された。
 今回の研究では、通常は安定な物質であるマンガン酸化物の薄膜材料を光励起することで、100億分の1秒以下の超高速で大きく色合いを変化させられること、その原因が100億分の1秒という極短時間だけ別の構造に変化しているためであることを、原子レベルの精密構造観測で実証した。
 この成果により、今後、熱などの影響を受けない新たな超高速光デバイス材料の開発が期待される。
 この研究成果は、1月16日付けの英国の科学誌「ネイチャーマテリアルズ」オンライン版 に掲載された。

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