高エネルギー加速器研究機構は12月15日、光によって分子内に僅か100億分の1秒の間だけ出現する分子磁性と分子構造の変化を、「時間分解X線吸収微細構造(XAFS)法」という実験方法により直接観測することに成功したと発表した。
光を用いた物質の状態制御は、次世代の光通信や光情報処理素子の開発のためのキーテクノロジーとして期待されている。特に光により磁性が変化する物質は、超高速通信に必要不可欠な光スイッチングデバイスへの応用の観点から注目を集めている。
しかし、最新技術をもってしても、高速で変化する分子の磁性を観測することは極めて難しく、分子磁性と分子構造の変化を同時に測定することはこれまで不可能だった。
今回の研究は、科学技術振興機構(JST)の目的基礎研究事業の一環として、高エネルギー加速器研究機構と東京工業大学、分子科学研究所が共同で、同機構の放射光科学研究施設(PF-AR)の時間分解X線ビームラインを使って行われた。このビームラインは、同機構とJSTとの共同研究により特別に設計・建設されたもので、レーザーパルスとX線パルスを交互に繰り返し入射する測定法により、周期的に非常に短い間だけ出現する状態を100ピコ秒(100ピコ秒は100億分の1秒)幅のX線を用いてとらえることができる。
研究グループは、このビームラインを利用して、XAFS法で、サンプルの鉄フェナントロリン錯体の色の変化を、分子の磁性および分子構造の変化として観測することに成功。溶液中でランダムに配向した分子が、光によって極めて短い間に一瞬だけ分子磁石になり、すぐに元の状態へと戻っていく様子を、これまで不可能だった空間精度と時間精度でとらえることができた。
今回の測定手法であるXAFS法は、固体だけでなく液体や気体のように結晶でない試料に対しても適用可能で、新たな超高速光磁気デバイス開発のための基盤的な測定法として役立つことが期待される。
この研究成果は、米国化学学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載された。
No.2009-50
2009年12月14日~2009年12月20日