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昆虫と共生細菌が助け合って農薬を解毒―新たな害虫防除法の開発に道:産業技術総合研究所ほか

(2021年11月10日発表)

 (国)産業技術総合研究所などの共同研究グループは11月10日、昆虫とその体内に生息する共生細菌とが助け合って農薬を解毒する仕組みを解明したと発表した。共生細菌の一つの遺伝子が解毒に不可欠であることをホソヘリカメムシと呼ばれる農業害虫で見つけたもので、「害虫が腸内の共生細菌との作用で農薬抵抗性を獲得する仕組みを初めて解明した」と産総研はいっている。共生細菌の遺伝子を利用する新たな害虫防除法の開発に繫がっていくのではと期待される。

 研究には、北海道大学、秋田県立大学、(国)農業・食品産業技術総合研究機構が参加した。

 単一の農薬を使い続けていると害虫がその農薬に耐えるようになってしまうことがある。そうした害虫が有効量の農薬に耐える性質のことを農薬抵抗性と呼ぶ。大量に合成された農薬が世界的に使われ始めた20世紀の中頃から様々な害虫において農薬抵抗性は見出されるようになり、現在では約500種以上もの害虫で農薬抵抗性が報告されているといわれている。

 そのため、農薬や殺虫剤に抵抗性を持った害虫と、それに対応しようとする研究者との終わりのない開発競争が行なわれている

 しかし、新しい薬剤の研究開発には多大なコストと時間がかかり、抵抗性を無くすようにする新たな方法の開発が求められている。

 産総研の生物プロセス研究部門は、害虫の生理生態や、害虫に共生する微生物の未知機能の解明に取り組み、これまでに大豆に害を与える農業害虫のホソヘリカメムシとその共生細菌をモデルにして共生機構などを解明し、ホソヘリカメムシに農薬分解菌が共生していることを見つけている。

 今回はさらにその研究を進めようと、害虫のホソヘリカメムシの腸内で共生細菌がどのようにして有機リン系農薬の一種フェニトロチオンの解毒を行っているのかその仕組みの解明に取り組んだ。

 その結果、解毒に不可欠な遺伝子を特定することに成功、共生細菌はその遺伝子により害虫の体内に入った農薬を速やかに分解し、その際できる分解産物を宿主の害虫が速やかに体外に排出してくれて共生細菌は害虫の体内で生存し続ける、という昆虫と共生細菌が助け合って農薬を解毒していることが分かった。

 共生細菌の農薬分解遺伝子を標的にした新たな害虫防除法の開発が期待される。