津波地震の被害軽減に一歩―南大西洋で発生した地震の震源過程を解明:筑波大学ほか
(2025年5月28日発表)
筑波大学と京都大学の共同研究チームは5月28日、南米フォークランド諸島の東約1,000kmの南大西洋にある無人に近い英国領サウスサンドウィッチ諸島沖で2021年に発生した津波地震の「震源過程」を解明した、と発表した。今も議論が続いている津波地震発生のメカニズムへの理解を深め、被害軽減に生かすことが期待される。
海底で地震が発生し、海底に地震断層が発生すると海水の上下動によって津波が生じ、その断層のずれがどのように変化していったかを「震源過程」という。
一般に津波の大きさは、地震の規模が大きいほど大きくなる。
ところが時として、体感や地震計で観測した地震動が小規模であるにもかかわらず大きな津波が発生することがある。
津波地震とは、そのような地上で観測される揺れから予想されるより大きな津波が発生する地震のことを指す。日本の地震学者、金森 博雄 博士により1972年に定義されたもので、地震動から計算されるマグニチュード(地震の規模)が小さいのに大きな津波が襲来する危険な地震として恐れられている。日本ではその津波地震の一例として1896年(明治29年)に釜石町(現・岩手県釜石市)の東方沖で起きた明治三陸地震があり、海抜38.2mに達する津波が生じたとされている。
しかし、津波地震は、通常の大地震より避難行動が難しくなるのにも関わらず発生のメカニズムはまだ完全に理解されておらず、議論が続いている状況で、被害を予測するボトルネックとなっている。
今回の共同研究は、2021年8月12日に南大西洋海域で発生した津波地震「サウスサンドウィッチ諸島地震」の地震波形データを最新の震源過程解析手法を使って解析、震源過程を推定した。
その結果、破壊開始から終了までの280秒の間に振る舞いの異なる4タイプの破壊が起きていたことを見つけた。先ず①震源で始まった破壊が高速な滑りを伴って南北に伝搬し、②一時停滞の後、③地震開始から約100秒後に45秒もの間ゆっくりとした破壊の成長が起こり、④その後、高速・大規模な断層滑りを伴う破壊が発生していたことが分かった。
一方、破壊が伝播する速度について、①、②、④は通常の地震と同程度だったが、全体を平均すると通常の地震より遅かった。
こうしたことから、「津波地震の特徴を持ったサウスサンドウィッチ諸島地震の震源過程は、想像以上に複雑なものであることが明らかになった」と研究チームは驚いている。