樹木に含まれる放射性セシウム濃度の予測精度向上―樹木と土壌間のセシウムの循環を評価：森林総合研究所
(2025年5月26日発表)
（国）森林研究・整備機構森林総合研究所の研究グループは5月26日、土壌から樹木に吸収される放射性セシウム（セシウム137）の量と、落葉などで樹木から土壌へ排出されるセシウム137の量が釣り合う状態を評価する手法を確立したと発表した。放射能で汚染された森林地帯から伐採・収穫する木材に含まれる放射性セシウム濃度の予測精度の向上が期待されるという。
放射能汚染地域における林業再開を見据えるうえで、収穫される木材に含まれる放射性セシウムの濃度をより正確に予測することは必要不可欠とされている。原発事故で森林地帯に拡散・降下した放射性セシウムは樹木の葉や樹皮などに付着したり地面に直接落ちたりし、雨水を介して土壌中に移動する。土壌に混入した放射性セシウムは樹木の根を通して樹木に吸収される。
このように、放射性セシウムは樹木と土壌の間で循環しているが、樹木が土壌から吸収しているセシウム137の量は直接観測することが難しく、これまでその定量的なデータはほとんど報告されていなかった。
研究グループは「樹木と土壌の間でのセシウム137の移動量の釣り合いを把握できれば、樹木から土壌への排出量を測定することで、土壌から樹木への吸収量を間接的に推定できるのではないか」と考え、樹木と土壌間におけるセシウム137の吸収量と排出量の釣り合いを評価する手法を検討した。
考案したのは、吸収と排出が原発事故以前から釣り合っている非放射性セシウム133の葉・内樹皮・木材の各部位間における濃度比を参照に用いる方法。事故発生直後にはセシウム137の排出量が多く、排出量と吸収量は釣り合いがとれていないが、時間の経過とともに、汚染された葉が落葉するなどのプロセスを経て、樹木と土壌間のセシウム137の吸収量と排出量は釣り合うようになり、セシウム133の動きとセシウム137の動きが徐々に同期する。
その結果、各部位におけるセシウム137とセシウム133の濃度比の差が小さくなるので、濃度比の差の有無を調べれば樹木と土壌間のセシウム137の移動の釣り合いを把握できる、という仕組みだ。
2022年に福島県内の落葉広葉樹10本を対象に葉・内樹皮・木材におけるセシウム137と133の濃度測定を実施したところ、吸収量と排出量の釣り合いが観測された。この評価手法は、原発事故以降管理が及んでいなかった森林の整備や林業活動の再開に向けた計画策定への活用が期待されるとしている。
