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家族性大動脈解離―発症の原因解明に一歩:筑波大学ほか

(2025年5月20日発表)

 筑波大学と大阪医科薬科大学、関西医科大学は5月20日、遺伝的な要因で心臓から全身に血液を送り出す大動脈の壁が突然裂けて死に至る危険の大きい家族性大動脈解離発症の原因の一端を遺伝子レベルで解明したと発表した。マウスを用いた実験で明らかにした。新しい治療法の開発につながると期待している。

 研究チームが取り組んだのは、家族性大動脈解離患者の発症原因の解明。実験ではまず、患者の細胞の間にある高分子複合体「細胞外マトリクス」の一つであるたんぱく質「フィブリリン1」を作る遺伝子の一部を変異させて実験動物のマウスに組み込み、大動脈解離を自然発症するマウスを作った。

 フィブリリン1は細胞の外に出ると繊維状の構造になって血管壁の弾力を保ち、血管を安定に保つのに必要なたんぱく質の働きを調節する。変異マウスではこの物質を作る遺伝子の一部を変化させた結果、大動脈壁で血管壁の弾力がどの程度保たれるのかを調べた。

 その結果、三層構造を持つ血管の外膜と内膜に挟まれた中膜の弾力が著しく低下、血管壁が脆弱化(ぜいじゃくか)して複数の亀裂が生じていることが分かった。このためマウスは生後3週目から大動脈解離を発症、5週目までに約半数が死亡した。また、その血管壁を調べたところ内膜や中膜に複数の亀裂がみられ、血流方向に沿って亀裂が進展していた。

 さらに、血管壁の解離の進行とともに多くの免疫細胞が血管の内膜に集積、また解離の発症前から血流に対する配向性が失われるなどの異常がみられ、免疫細胞の内膜への接着に重要な働きをする分子が上昇していた。血管壁に浸潤している免疫細胞を調べると、解離の進行に伴って炎症型・抗炎症型の両方の性質を持つ免疫細胞が増加していることなども明らかになった。

 これらの結果から、研究グループは「血管内皮細胞とマクロファージの相互作用、およびTGFβシグナルの抑制が大動脈解離発症の重要な分子基盤であることが解明された」とみている。今後はマクロファージを標的とする新しい大動脈解離治療法の開発を目指す。