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産業革命から現在までの220年間の大気硝酸量の変遷を復元―グリーンランドの氷床から「アイスコア」掘削し明らかに :北海道大学/金沢大学/名古屋大学/気象研究所

(2025年5月20日発表)

 北海道大学や気象庁気象研究所などの共同研究チームは5月20日、グリーンランドの氷床(ひょうしょう)の氷「アイスコア」に含まれる大気汚染の元凶である大気硝酸量が産業革命から現在までの間にどのように変わったか220年間にわたる変遷を復元した、と発表した。研究には、名古屋大学、金沢大学が参加した。

 氷床は、巨大氷河の集合体。現在それが存在するのは、南極大陸とグリーンランドの2か所だけ。アイスコアは、その氷床をドリルで掘削することで得られる氷の円柱状試料のこと。

 今回の研究は、グリーンランドを覆っている氷床にいくつかあるドーム(頂上)の内、最も雪が多く降る南東部のドーム(高度3,160.7m)に着目、その氷床を垂直下向きに掘削して深さ250mまでの「アイスコア」試料を採取することに成功した。約5,000試料の硝酸塩量を約2年間かけて分析、硝酸塩量が220年の間にどのように変わったかを連続して調べた。

 大気中に浮遊する微粒子(エアロゾル)は、人体に悪影響を及ぼし、産業革命から1980年代にかけ産業活動の活発化によりSOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)のエアロゾル排出量が劇的に増加した。その後先進各国で排出規制が強化されているが、課題なのがNOx。大気中での反応が複雑なため、その増加量や削減効果がよく分かっておらず、将来の気候を予測するにあたっての不確実性の要因となっている。

 そこで、将来予測の不確実性を減らすための有力な取り組みの一つとして注目されているのが過去から現在までの長期にわたるガス状硝酸とエアロゾル粒子状硝酸塩からなる大気硝酸量の変遷がどうだったかを振り返って解読し変動メカニズムを明らかにすることで、その手段としてアイスコアの利用があがっている。

 アイスコアは、表面が現在に近い降雪で、地下深くにいくほど遠い過去の雪でできている貴重な“自然のタイムカプセル”だが、硝酸塩は揮発しやすく、古い過去の情報を正確に抽出するのが難しかった。

 そのため、これまでに分析されたグリーンランド中央部のアイスコアでは、日射による硝酸塩の光分解損失の影響が大きく、不確実な記録しか出ていなかった。

 今回の研究では、次々と新雪が堆積している最も雪の多い南東部のドームでアイスコア掘削に挑戦し、大気硝酸量の揮発や日射による損失のない深さ250mのアイスコア掘削に成功した。

 この研究実験データは公開されており、研究者から小中学生の教材まで幅広く使うことができる。