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短時間のダッシュと休息の繰り返し練習が、記憶力を高める―海馬の活性化は運動不足による心身不調にも好影響か:筑波大学

(2021年5月17日発表)

 筑波大学体育系ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センターの征矢(そや)英昭教授の研究チームは5月17日、ダッシュ(高強度運動)と休息を繰り返す間欠的トレーニングが持久力を高めると共に、記憶や学習を担う脳内の海馬の神経成長を促す効果を見つけたと発表した。短時間での効果的なトレーニング法は、コロナ禍での運動不足対策にも役立ちそうだ。

 運動は心身の健康に有益な事は広く知られているものの、最近のスポーツ庁の調査では忙しさなどを理由に実施する人は低迷している。

 そこで研究チームは短時間でできる高強度間欠的トレーニングが、記憶や学習を担う海馬機構にどのように作用するかの解明に取り組んだ。

 古くから持久力(有酸素能力)の高い人ほど認知機能が高いことが知られており、研究チームもこれまで4分間の高強度間欠的トレーニングが前頭前野を刺激し認知機能を高めることを明らかにしてきた。

 人間の生理応答に準じた動物用運動モデルを使って、ダッシュと休息をくり返す「高強度間欠的トレーニング」と、早めのスピードで行う持久走「中強度の持続的な運動」の2つを比較し、週5日間ずつ4週間にわたって調査した。

 高強度間欠運動、中強度持続運動ともに、足底筋(そくていきん)やヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)が増大し、疲労困憊(ひろうこんぱい)までの時間が延びたことを確認した。さらに持久力につながる骨格筋のクエン酸合成酵素の活性を調べると、高強度間欠運動だけは速筋優位の足底筋がはっきりと増加した。これは速筋繊維による筋適応を引き起こしていた。

 この運動モデルを使い、高強度間欠運動が海馬の機能などに有益な効果をもたらすかを検証した。海馬は記憶形成を担うとともに空間学習記憶と強く関連することが知られている。

 ラットの空間学習能力を見るため円形プールで泳がせ、プール内のある所の逃避場所を記憶させ、そこでの滞在時間の多さを測定して空間記憶機能を知る「モリス水迷路試験」で、高強度間欠運動が記憶力を高めるかを確認した。

 4週間のトレーニング後、双方ともに空間学習能力記憶課題の成績が向上し、海馬で新しく生まれる神経細胞の数も増えた。神経細胞の成長を促す因子やその受容体のたんぱく質などが優位に増加していた。

 この成果は高強度間欠的トレーニングで記憶力が向上することを示している。

 研究グループはこれまで、低強度の運動であっても継続すれば十分に記憶力が高まる一方で、高強度運動を持続的に実施すると記憶力の向上効果はあまり得られないと報告してきた。しかし今回の研究で、たとえ高強度の運動でも、間欠的に、かつ短時間で実施すれば記憶力が高まることが明らかになった。

 今後は、ラットの結果が人間にどのように対応するかを見るため、機能的核磁気共鳴画像装置(fMRI)を使って検証することにしている。