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イネの葉の大規模な光合成測定に成功―出穂後の4週間の光合成改良が収穫増加につながる:茨城大学ほか

(2021年4月15日発表)

 茨城大学、東京農工大学、龍谷(りゅうこく)大学らの研究チームは4月15日、独自に開発した光合成測定装置を使って複数のイネ系統の葉の光合成変化を詳細に調べ、イネの重量との関係を明らかにしたと発表した。品種や系統ごとに効率の良い光合成活動をする時期を見つけ、収穫増加に繋げたいとしている。

 世界的に人口増加や土地開発などが進み、穀物生産に大きな影響がでている。そこで田んぼの面積当たりの作物収量の増加を図ろうと様々な研究がなされている。なかでも交配育種によって光合成能力を高め収量増加を実現した研究例はこれまでなかった。

 そのネックになっていたのが光合成測定の難しさだった。一般的には光合成蒸散測定装置を使って、葉の面積当たり・時間当たりのCO2 吸収量を測定する。ところが従来装置での測定では、葉っぱ1枚あたり数分から数十分もかかり、労力やコストがかさんで多数のサンプル測定ができなかった。

 そこで京都大学の田中祐助教と東京農工大学の安達俊輔特任助教(現在茨城大学助教)、大手計測器メーカーの(株)マサインタナショナル(京都市)が「新型光合成速度高速測定装置」を共同開発した。これを使うと、葉っぱ1枚当たり20~30秒の短い時間でCO2同化速度が測定できる。

 研究チームは、この装置を使って多数のイネ系統の葉のCO2同化速度を栽培期間全体を通じて解析し、イネ系統によってどのように変化のパターンが現れ、イネの重量(バイオマス量)と関わるかを明らかにした。

 イネは、日本の代表的品種の「コシヒカリ」とインド型多収品種「タカナリ」、コシヒカリとタカナリを交配させて育成した「染色体断片置換系統群」の合計78系統を、東京農工大学の水田で栽培した。

全ての系統のCO2同化速度を、移植から収穫までの約4か月にわたり、週1回以上(通算20日)の頻度で測定。イネの栽培期間全体の光合成を調べることに成功した。

 この結果、タカナリ系統(タカナリに類似するゲノムを持つ系統)はコシヒカリ系統に比較して、生育前半のCO2同化速度はやや低いものの、生育後半になると著しく大きくなり、その後一貫して高くなった。

 またタカナリ系統間、あるいはコシヒカリ系統間のCO2同化速度の違いが生育後半で大きくなった。さらに出穂期にあたる8月上旬以降の約4週間のCO2同化速度の累積の合計が、生育後半のイネの重量の生育速度や収穫時の重量と密接に関わっている生育期間を推定できるようになった。

 新しい測定装置の開発によって、CO2同化速度がより簡単に測れるようになった。この進歩は、品種や系統間での遺伝解析技術との融合、分子生物学技術との融合などによる光合成関連遺伝子の特定が進むとみられ、高収量の作物の育成に期待がかかっている。