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バッタが砂漠で生き延びるためにとる行動を解明―世界の農業被害軽減に役立つ成果:国際農林水産業研究センターほか

(2021年4月14日発表)

 (国)国際農林水産業研究センターは4月14日、モーリタニアなどとの国際共同研究で、サバクトビバッタ(以下バッタ)が砂漠で生き延びるためにとる行動を解明したと発表した。砂漠地帯のバッタによる農業被害は深刻で、その軽減を如何にして図るかが世界的な課題になっているが、バッタの生き延び方を知ることで発生予測の精度を高めることが期待できるという。

 国際共同研究には、モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センター、フランス国際農業開発センター、メルボルン大学(オーストラリア)が参加した。

 このバッタはその名の通り砂漠に生息する害虫の一種。大発生した成虫の群れは空を覆い尽くすほどの巨大な塊りになって飛行し植物や農産物を食べ尽くす。2020年にはアラビア半島で発生した群れが南アジアにまで侵入している。

 そのため、長距離を移動する成虫になる前の幼虫の内に駆除することが求められ、バッタの行動パターン、特に過酷な砂漠でどのようにして体温を調節し、採餌して生き延びているのかを解明する必要がある。

 ところが、これまでそれが明らかにされていなかった。

 それを解明しようと取り組んだのが今回の研究で、バッタの生息地である西アフリカのモーリタニアに広がるサハラ砂漠に実際に行って野外調査を行った。

 調査は活発に集団移動している幼虫の群れを対象にして一日の様々な時間帯のバッタの体温と周辺の温度とをサーモグラフィカメラで同時に計測し、行動との関係を調べた。すると、バッタは早朝の温度が低い時には密集して太陽光に当たるよう“日向ぼっこ”をして体温を高め、温度が高い時は太陽光に当たる表面積を小さくし、熱い地表から体を離すなどの行動をとって体温を下げ、体温調節していることが分かった。温度が高い時も体温を約40℃に維持して消化が促進されるようにしていた。

 また、日中の気温が高い時には太陽光に当たる体の面積を小さくし、背伸びをして体を熱い地面から離すようにしたり、日陰に隠れたり、植物の上に移動するようなことをして致死温度を越えないよう体温を調節していた。

 バッタは日中に採餌と移動を繰り返し、移動中の胃は満杯に近い状態が維持されていることも分った。高温下では食べた食物が早く消化されるため空腹になりやすいはずだが、群れは移動しながら新たな餌場を転々とすることで効率良く採餌と消化を繰り返し発育していることが分かった。

 研究グループは「気象情報からバッタの体温を推定して行動を予測することが可能であることを確認した」としており、この成果を利用することでバッタの発生予察の精度を高められると見ている。