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酵母の果糖発酵能力と栄養源の合成能力を再発見―研究利用が広がり、野外での生態解明にも期待がふくらむ:理化学研究所

(2021年4月5日発表)

 (国)理化学研究所バイオリソース研究センターの遠藤力也研究員らのチームは4月5日、同研に保存中の全ての酵母が果糖を栄養源として利用できる性質があること(資化(しか))と、大半の酵母が果糖を有益なものに発酵できる能力があることを発見したと発表した。酵母はパンや清酒の発酵などに使われる身近な存在だが、これまで観察可能な特徴をつかみにくかった。今後、研究材料としての利用が広がり、野外での生態解明も進みそうだ。

 理研バイオリソース研究センターの微生物材料開発室は、多種多様な微生物株を収集、保存し、他の研究者らに資料として提供するなど、わが国の微生物菌株の品質管理で重要な役目を担っている。

 酵母は、大腸菌やショウジョウバエなどと同じ普遍的な生命現象の研究に使われるモデル生物であり、1,500以上の種が知られている。その種の識別や分類には、生理学的特徴として「糖類の発酵能力」や「炭素源の資化能力」など30項目以上が識別指標とされてきた。しかし果糖(フルクトース)に関するデータがほとんど無いままだった。

 果糖はその名の通りフルーツに多く含まれる糖の一種で、水に溶けやすく吸収、消費が緩やかな性質がある。またブドウ糖は人間や動物、植物が活動するためのエネルギーとなる大切な物質で、吸収や消費が早い。

 研究チームは、保存中の酵母のうち代表的な388株を使い、古い文献に載っていてほとんどそのまま信じられてきた「ブドウ糖を発酵できる酵母は例外なく果糖も発酵できる」との記述について検証した。

 その結果、388株全てで「果糖の資化能力」があることと、302株で「果糖の発酵能力」があることが分かった。中にはブドウ糖よりも果糖を好んで発酵能力を発揮するものや、ブドウ糖は発酵するものの果糖は発酵しないなどの特徴を発見した。さらにブドウ糖と果糖をそれぞれ単独で与えたり混合で与えたりすると、単独では果糖を多く消費し、混合の時はブドウ糖を好んで消費することも分かった。

 酵母の多くの種が「果糖の資化能力」と「発酵能力」の2つの能力を持っており、これが酵母という生物の観察可能な特徴であることが明らかになった。

 この2つの能力は酵母が野外で生存する上で欠かせない能力とも考えられ、今後、野外での生態の解明につながるものとみている。