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脳内に冬眠状態導く神経細胞―医療応用などに一歩:筑波大学ほか

(2020年6月11日発表)

 筑波大学と(国)理化学研究所の研究グループは6月11日、マウスを冬眠に近い状態にする神経細胞が脳内にあるのを発見したと発表した。この神経細胞を刺激すると、マウスの体温や生命活動に必要な体内の化学反応「代謝」が数日間にわたって著しく低下したという。人工冬眠研究を大きく前進させるとして、将来の医療応用や人類の宇宙進出への重要な一歩になると期待している。

 筑波大 国際統合睡眠医科学研究機構の櫻井武教授と大学院博士課程の高橋徹さんらの研究グループが、理研の砂川玄志郎基礎科学特別研究員との共同研究で発見、休眠誘導神経(Q神経)と名付けた。Q神経が見つかった脳の視床下部は、体温調節や食欲、睡眠など生命維持に深く関わる総合中枢として知られている。

 ほ乳類は一般に、厳しい寒冷下では身体を震わせて熱を発生させて体温を維持しようとするが、Q神経を刺激したマウスもこれによく似た行動を示した。実験でマウスのQ神経を人為的に刺激したところ、外気温が28℃でマウスは身体をリラックスさせほとんど動かなくなった。

 ただ、外気温をさらに下げていくと、起き上がって身体を丸め震え始めた。この結果、代謝は急激に上昇し、体温も約20℃前半で維持されるようになった。体温は著しく低下したものの、通常の体温である37℃よりも低い水準で環境変化に適応するよう、適切に制御されていることが分かった。

 Q神経を刺激したことのあるマウスと、その経験のないマウスを使って運動能力や記憶力などを比較する行動実験をしたところ、両者に差は見られず、脳や心臓、筋肉などの臓器組織にも違いは見られなかった。また、同じマウスがQ神経の刺激があるかないかで、繰り返し二つの状態を行き来できることも確認できた。

 これらの結果から、Q神経が刺激された状態が「冬眠に似た低代謝・低体温状態であることが示唆された」と、研究グループはみている。さらに、マウスより約10倍大きいラットでも似た現象が見られたため、他のほ乳類でも同様の神経回路が存在している可能性があるとして、人間のような冬眠しない動物でも人工冬眠を実現する可能性が開けるという。