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ドローンとAIを使って牧草の育種を効率化―育種家に代わって良い牧草を選ぶスマート法が軌道に:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2020年3月12日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構と(株)バンダイナムコ研究所は3月12日、ドローンと人工知能(AI)を使い、育種家に代わって優良な牧草の株の選抜を自動的にできる評価法を開発したと発表した。ベテランの育種専門家に頼っていた牧草の選別を、情報通信技術とAIによって効率化が可能になり、畜産物生産の規模拡大が進むものとみられる。

 食肉は昨今、高齢者に必要なたんぱく源として認識されるようになった。魚介類の消費減少傾向とは逆に牛肉、豚肉、鶏肉の消費が伸びている。こうした中で国産の畜産物の生産と規模拡大にむけて、まずはエサとなる牧草の育種の効率化が求められていた。

 エサとしての良い牧草を作り出すためには、育種畑に植えられた数多くの集団から希望する特性を持つものを選び出す“目利き”作業が必要になる。これまでは新たな品種登録にむけた牧草調査は、ベテランの育種家が畑を歩き肉眼観察によって品定めをしてきた。

 評価のポイントは、①収量の良し悪しを予測する牧草の成長度合い、②病気の状態を示す指標、③無事に越冬できたかを、それぞれ9段階で細かく判定する。この作業は傾向をつかむだけでも1時間はかかり、詳細なデータとなると1日かかることもある。北海道などでは冬場は長時間の寒さに耐えながらの厳しい作業となる。

 そこで農研機構は、ドローンとAIの導入によって人手を代替するための調査を始めた。ドローンなら畑の全体を上空から5分程度で撮影し記録できる。その空撮画像をAIで解析し、評価する。そこにバンダイナムコが娯楽分野で蓄積してきた高度な技術力を取り入れた。

 畑を上空から撮影した画像と、品種改良の専門家による判定結果をセットにしAIに学習させた。正答率の高かったAIモデルを選び、育種家の評価との誤差が±1点を正答と評価したところ、ほぼ9割以上の正答率が得られ、この手法が育種家の代わりになると認めた。

 ただ、牧草の生育段階や雲による太陽光の明るさ、湿り具合による地面の色などが異なる撮影画像では、AIは正しい判断が難しくなる。それでも様々な撮影条件で撮られた画像を一緒に学習させることでこうした問題が回避できることが分かった。

 これによって牧草の選別作業が大幅に進む。選別数が多ければその中から優良な牧草品種を見つけられる可能性も高まった。農研機構では作物全般についても同じようにドローン、AIなどによる育種の技術開発を進めており、この成果がスマート育種を促進するものと期待されている。