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グラフェンとカルシウムから成る超伝導材の原子配列解明―グラフェンを利用した新たなデバイス材料の開発に弾み:東京大学/早稲田大学/日本原子力研究開発機構/高エネルギー加速器研究機構

(2019年11月14日発表)

 東京大学と早稲田大学、日本原子力研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは11月14日、炭素原子のシート状物質グラフェンとカルシウムから成る超伝導を示す2次元化合物の原子配列を世界で初めて解明したと発表した。グラフェンを用いた薄くて柔らかい2次元超伝導材料をはじめ、新たなデバイス材料の研究開発の促進が期待されるという。

 グラフェンは炭素原子が6角形の蜂の巣状に結合した平面構造の物質で、これまでの材料とは異なる優れた特性をいろいろと備えており、例えばグラフェンの中を流れる電子は光と同じように質量ゼロであるかのように振舞う性質がある。

 また近年、超導の発現が試みられ、シリコンカーバイド(SiC)基板上に作ったグラフェンの層間にカルシウム(Ca)原子を挿入した化合物「SiC上Ca挿入2層グラフェン」で超伝導現象が報告されている。

 ただ、この物質の性質の理解に欠かせない原子配列に関しては、これまで2枚のグラフェンの層間にCa原子が挿入された配列になっていると考えられ、そう信じられていた。

 研究グループは今回、試料最表面の原子配列の情報を高感度で検出できるTRHEPD法(トレプト法=全反射高速陽電子回折法)という実験手法を用いて、「SiC上Ca挿入2層グラフェン」物質の原子配列を調べた。

 その結果、SiC基板上に2枚のグラフェンを作る際、2枚のグラフェンと基板との間にグラフェンとよく似た炭素原子層のバッファー層ができ、このバッファー層とグラフェンとの間にCa原子が挿入されていることが分かった。

 また、この原子配列の試料の電気伝導度を調べたところ、この原子配列の「SiC上Ca挿入2層グラフェン」は電気抵抗ゼロの超伝導現象を示すことが明らかになった。

 これらの成果は、グラフェンにおける超伝導メカニズムを解明する重要なカギとなるもので、超伝導に寄与している電子状態の特定やそのメカニズムの解明が今後の課題という。

 今回の研究では、SiC上の単層グラフェンでも超伝導が発現する可能性が極めて高いことが明らかになったという。単層グラフェンは電子が光のように高速で動くことができるという特性を持つため、この性質と超伝導を組み合わせることで、エネルギー損失ゼロの超高速情報処理ナノデバイスの実現が期待されるとしている。