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草原生態系の知られざる意義や価値の解明―創薬や農業への利用など草原の宝庫に注目:京都大学/森林総合研究所ほか

(2019年2月8日発表)

 京都大学生態学研究センターの東樹宏和准教授と、森林総合研究所黒川紘子主任研究員、筑波大学山岳科学センターの田中健太准教授らの研究グループは2月8日、長野県菅平高原の草原で収集した137種の植物を調べた結果、植物の葉や根に膨大な種類の細菌(バクテリア)や真菌(かび、きのこ、酵母類)が共生していることを見つけたと発表した。草原生態系に関する知識は極めて乏しい実情だが、今回の広域、網羅的調査によって新たに創薬や持続可能な農業応用に利用できそうな微生物が数多く存在している可能性がつかめたという。

 草原生態系は生物多様性の宝庫ともいわれる。植物種の豊富さに加え、その花に集まるハチやチョウをはじめ、植物の茎や葉を食べる昆虫や微生物、さらにこれらを捕食する鳥類や哺乳類などが多様にひしめいている。

 ところが草原生態系の役割と解明には、これまで十分な調査がなされたことはなかった。その価値がどんなものか未解明のままで、世界の草原は開発や温暖化などで急激な減少が進んでいる。

 例えば熱帯雨林や森林などの事例を見ると、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し酸素を放出する貴重な“地球の肺”の役割が知られてから、森林や雨林の減少に警鐘が鳴らされ保全活動が急速に広がってきた。

 今回の調査は、植物種が豊富で草原生態系としての管理も行き届いている長野県菅平をフィールドに、2017年7月から着手し137種の植物を収集した。これらの根と葉に共生する細菌類や真菌類を「DNAメタバーコーディング」法を使って網羅的に調査した。この方法は生物に固有のDNAの短い塩基配列(DNAバーコード)を調べ、既知情報と照合して種名の特定をするテクニック。迅速かつ簡便に種が特定できる。

 植物の体内には植物のゲノム(全遺伝情報)DNAだけでなく、そこに共生する微生物の DNAも含まれている。東樹准教授らは森林生態系の植物とその共生微生物の関係を研究しており、この手法を草原生態系全体に応用することで、植物共生微生物の多様性を調査した。

 採取した137種の植物からは、7,991系統の細菌(古細菌)と5,099系統の真菌が検出された。この膨大なデータを分析したところ、植物の成長を促進させる微生物や、医薬品の原料になる可能性の微生物などが数多く含まれていた。

 研究チームは、失われつつある草原生態系の中に、創薬や多剤耐性菌対策など地球規模で人類の役に立ちうる貴重な資源が眠っているはずだと、強い関心を抱いている。