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高校生はコロナ禍で抑うつになりにくくなっていた―心の変化を“地形図”で可視化し集団の傾向つかむ:名古屋大学/横浜市立大学/同志社大学/理化学研究所ほか

(2026年1月23日発表)

 名古屋大学、日本学術振興会、東京大学などの共同研究グループは1月23日、心の変化を地形図として可視化する“エネルギー地形図解析”という方法を、高校生から取得したアンケート回答に適用した結果、高校生はコロナ禍で抑うつになりにくくなっていたことが示されたと発表した。

 青少年の抑うつとコロナ禍の関係については、心理的苦痛の増加を示す報告や、学校からの解放による心理的負担の軽減を示唆する報告など、多様な反応が示されている。ただ、これらの多くはコロナ禍後に実施して得られた調査結果であり、パンデミック発生前後の調査をもとに変化を明らかにしたものではない。

 研究グループは、未来のパンデミックに備えるためにも抑うつの時間変化を詳細に理解する必要があると判断、今回そうした解析に取り組んだ。

 実施したのは、思春期の健康と発達を追跡する大規模研究「東京ティーンコホート」に蓄積されているデータの解析。東京ティーンコホートとは世田谷区・三鷹市・調布市に住む児童とその養育者3,100余人の参加を得て、思春期における心理的・身体的発達や行動特性の経時的変化を明らかにすることを目的に、東京大学、総合研究大学院大学、(公財)東京都医学総合研究所が共同で運営している長期間の調査追跡研究のこと。

 今回はこのうちの84人の高校生の協力を得て、心理的苦痛に関する項目を含むアンケートを採り、その解析に「エネルギー地形解析」を適用した。エネルギー地形解析は、解析対象の取り得るさまざまな状態の起こりやすさや変化しやすさを地形図のように可視化する手法で、安定・不安定な複雑な状態変化を直感的に理解できる。

 解析の結果、高校生集団全体の傾向としてコロナ禍で抑うつになりにくくなっていたことが示されたという。

 集団内に存在する個人差を明らかにするため、機械学習を用いて抑うつスコアの時系列データを層別化したところ、抑うつスコアが低く安定なグループと高く不安定なグループが特定され、両グループでコロナ禍による抑うつへの影響が異なることが示された。

 また、アンケート調査参加者が約2年ごとに受けた頭部MRI検査の解析からは、中前頭回の尾側と側頭極の皮質厚の成長過程がグループ間で異なり、この脳構造の成長過程の違いが抑うつの感受性に関与している可能性が示唆された。

 今回、エネルギー地形解析を精神医学領域に応用することで心的状態の変化を直感的に読み解く新たな可能性が示された。将来的には大規模な社会変化が生じた際に精神状態への影響を早期に予測し、要支援者を適切に選別することなどが期待されるとしている。