熱帯林増減の要因を解明―東南アジア各国の社会・経済データ分析:東京農業大学/森林総合研究所
(2018年5月31日発表)
東京農業大学と(国)森林総合研究所は5月31日、地球温暖化や生物多様性に大きな影響を与える東南アジアの熱帯林がどのような要因で増えたり減ったりしているかを解明したと発表した。森林が育ち易い低標高地が広がる国では伐採利用のためのアクセスも容易で森林破壊が進み易い一方、森林の希少価値が高まって、いち早く森林面積が増加に転じる事が分かった。
東京農大の今井伸夫准教授と森林総研の古川拓哉主任研究員らの研究グループが、東南アジアを対象に熱帯林が減り続けている国と増加に転じた国の社会・経済・環境要因の違いを調べて明らかにした。
調査では、社会、地形、土地利用の効率、農林水産品の貿易など、多数の要因について1980年以降30年間にわたって積み上げられてきた各種データを用いた。東南アジアでも森林が回復または減少が停止したフィリピン、タイ、ベトナムと、今も減り続けるカンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマーの違いを比較・分析した。
その結果、森林減少が停止した3カ国はいずれも標高の低い土地が広がり、かつて激しい森林減少に見舞われていた。そのため森林の希少価値が上がって森林増加に転じていた。また農業生産量の少ない国と農業生産効率の高い国は、どちらも農地拡大圧力が弱く森林増加に転じ易い事も分かった。
さらに、フィリピンとタイなど社会的自由度が比較的高く環境保全活動がしやすい国や、ベトナムなど強権的統治機構によって環境保全活動を推進する国では、森林面積が増加に転じ易い事も分かった。しかし、カンボジアやミャンマーなどのように社会的自由度が低い状況から高い状況に移行しつつある国では、最も森林面積が減り易い事が明らかになった。
そのため研究グループは「社会経済体制の転換に伴う森林開発圧力の急激な変化に注意しながら、農業セクターの生産性を向上させていくことが重要」として、国際的な支援の必要性を指摘している。