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リチウムイオン電池の劣化可視化―長寿命、高性能化に貢献へ:産業技術総合研究所/日産アークほか

(2022年2月3日発表)

 (国)産業技術総合研究所、(株)日産アークなどの研究グループは2月3日、電気自動車や再生可能エネルギーの電力貯蔵技術として注目されるリチウムイオン電池の劣化の様子を非破壊分析する新技術を開発したと発表した。透過力の高い中性子線を利用して電池内部で不均一に進む劣化の様子を可視化した。充放電サイクルの特性向上や長寿命化などの高性能化に役立つ。

 リチウムイオン電池は単位体積当たりに貯蔵できる電力量が大きく、くり返し充放電可能な二次電池として実用化されている。ただ、充放電を繰り返すうちに電極などが劣化するため、その長寿命化が大きな課題になっている。

 今回、産総研、日産アークのほか高エネルギー加速器研究機構(KEK)、(一財)総合科学研究機構も加わった研究グループは、透過力の高い中性子線を用いて市販されているリチウムイオン二次電池を壊すことなく、その内部の状態を観察することに成功した。

 高エネ研などが運用する大強度陽子加速器施設(J-PARC)の高強度中性子線を利用、新品と使用後のリチウムイオン二次電池に照射した。この実験で透過後の中性子線強度が波長ごとにどのように変化したかなどを調べ、内部の結晶状態を定量的に比較・分析した。

 実験では、リチウムイオン二次電池の正極付近で中性子の透過方向の厚みが約3.5㎜の試料について、視野の広さにして約16㎜×65㎜の部分を観測した。その結果、リチウムイオンが負極のグラファイト結晶に入り込んでできた何種類かの結晶の密度分布を平面方向の空間分解能約1㎜で観察、そのデータから劣化状態を定量的に調べられることが分かった。

 今回の実験から、電池内部では一様に劣化するのではなくセンチメートル単位で部分的に劣化していくことや、特に劣化の激しい部分が存在することが分かった。さらにこれらの部分から劣化が広がっていくことも推測できたため、今後の長寿命化などの高性能化につながる成果が得られたという。

 研究グループは今後、さらに非破壊計測・解析技術の改良を進め、正極材量や固体電池などにも適用できるようにする。