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牛の人工授精用の精子選別器具を開発―受胎に有利な元気な精子を泳ぎ方の違いで選び捕集:産業技術総合研究所ほか

(2018年3月20日発表)

 (国)産業技術総合研究所などは320日、牛の受胎に有利な精子を選んで捕集する人工授精用の運動性精子選別器具を開発したと発表した。

 牛の人工授精の受胎率を上げるため(国)科学技術振興機構(JST)などの支援を受け、森永酪農販売(株)、(独)家畜改良センター、佐賀大学、佐賀県畜産試験場、(国)農業・食品産業技術総合研究機構、富山大学、富山県農林水産総合技術センター、JSTと共同で開発した。

 牛をより効率良く繁殖させる方法としては、人工授精をはじめ4つの方法が世界的に利用されているといわれ、日本では家畜用牛の繁殖の多くが人工授精によって行われている。

 ところが、日本の牛の人工授精では一つ問題が起きている。

 牛の人工授精は、ストロー状の容器に封入して凍結保存した精液を解凍(融解)して人工授精に適した時期に雌牛の子宮に注入するという方法で行われるが、近年人工授精の受胎率が低下傾向にある。農家が多数の牛を飼うようになり管理が十分行き届かなくなってきていることなどがその原因とされ、一度人工授精すれば6割程度妊娠していたのが最近はかなり落ちているとの報告もあるといわれている。

 人間の不妊治療では、運動性を失ったり死んだりした精子を取り除き、活発に運動する元気な運動性精子を集めるといった精液・精子の前処理が行なわれているが、牛の人工授精の場合は一般にそのような前処理なしにそのまま混在した状態で用いられている。

 こうしたことから牛の人工授精でも容易に前処理を行なえるようにすることが求められている。

 今回の運動性精子選別器具は、牛の精子は直線的に泳ぐ精子より蛇行しながら泳ぐ精子の方が受胎性が良いことを見つけて開発したもので、元気な受胎に有利な精子を泳ぎ方で選んで捕集できるようにした。

 従来からある運動性精子の捕集技術は、捕集できる精子数が少なく、牛の人工授精には使えなかった。今回の運動性精子選別器具を使えば「人工授精に必要な量の受胎に有利な健全性の高い精子を捕集できる」と産総研はいっている。

 この器具で捕集した精子により人工授精した子牛第一号が既に誕生している。