津波被害の海岸林再生―石礫層に強いクロマツ選抜を：名古屋大学/三重大学/福知山公立大学/兵庫県立大学/京都大学/森林総合研究所
(2025年11月26日発表)
砂より粗い石粒でできた「石礫層（されきそう）」があっても根がしっかり成長する。名古屋大学や三重大学、（国）森林総合研究所などの研究グループは11月26日、白砂青松の象徴とされるクロマツにこのような性質があると発表した。地中にまっすぐ伸びる主根の成長が石礫層で衰える個体がある一方で、旺盛に成長し続ける個体もあることを明らかにした。巨大地震に伴う津波で壊滅的な被害を受けた海岸林の再生を支えるための基盤情報になると期待している。
2011年に起きた東日本大震災では、巨大な津波が海岸林を破壊して大きな被害をもたらした。そこで名大などのほか福知山公立大学や兵庫県立大学、京都大学も参加した研究グループは、今後の震災に備えて防災力の高い海岸林、特に日本で広く植えられているクロマツの再生に欠かせない課題を探った。
研究では、成木の根を元の形状のまま掘り上げる技術と年輪解析技術を組み合わせ、世界でも珍しい根の年輪解析を実施。さらに地下１m以上の深いところにまで伸びた根の周りにいる微生物の量や働きを詳しく調べた。
その結果、調査した3本のクロマツのうち2本では主根の伸びが石礫層で鈍くなった。しかし、残りの１本では旺盛な伸長速度を維持、個体によって違いがあることがわかった。また、植物の根の先端部にある細根に共生して水分や養分の吸収を助ける菌根菌の感染率は、地表近くでは90％以上だったのに対して深いところでは約10％にとどまることなども明らかになった。
一方、細根の内部に潜んで生活する内生菌の感染率は菌根菌より高く、これらの内生菌はいずれも落ち葉などを分解する性質を持っていた。石礫層にわずかに含まれる土壌中の炭素と窒素の濃度は地表に近い表層よりも高く、その新鮮度を示す炭素・窒素比が高いほど根が伸びる速度も大きかった。
これらの結果から、元気な根を持つ個体ほど根の皮などを石礫層に多く落とし有機物を供給、石礫層に負けずに成長するとみている。そのため、クロマツによる今後の海岸林再生については「根の成長が旺盛な個体を選抜して育種・植栽することや、石礫層の深さや分布を考慮した植栽設計が重要」と、研究グループはみている。
